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この記事では、「ホラクラシー」の意味や背景、メリット・デメリット、注意点、実例などについて考察します。
近年、「ホラクラシー」という言葉が注目されています。情報化が進み、さまざまな業態が登場している中、従来のやり方では企業を円滑に運営することは難しくなっています。このような時代を乗り越えるためには、新しい考え方が不可欠です。
ホラクラシーは現代を生きるビジネスマンには重要なキーワードでもあります。この記事を通して、「ホラクラシー」を理解し、社会人としての知識の幅を広げてください。
「ホラクラシー」とは
ホラクラシーとは、役職や階級などの上下関係のない組織経営の考え方です。ホラクラシー(holacracy)は、「holarchy」と「cracy」が組み合わさった英語の造語です。「holarchy」は、ギリシャ語の「ホロン」が語源です。
ホロンは、部分でありながら全体としての機能・性質をもち、全体と調和して機能する単位を意味します。その状態である「holarchy」に接尾語の「cracy(支配)」がついて「holacracy」という言葉が生まれました。
この「ホラクラシー」という考え方を開発したのが、アメリカのソフトウェア企業のCEOであったブライアン・ロバートソン氏です。会社経営を進める中で、見いだしたのがこのホラクラシーでした。
彼は、トム・トミソン氏と「ホラクラシー・ワン」を共同創業し、ホラクラシーの普及と組織づくりの支援をおこなっています。今や世界中のさまざまな企業でホラクラシーが実践されているのです。
「ホラクラシー組織」とは
ホラクラシーの考え方に基づいて運営されるのが、「ホラクラシー組織」です。これまで多くの企業において存在していた役職や階級はなく、意思決定は、役割ごとの「サークル」と呼ばれるグループ単位でおこなわれます。
役職や階級がない自由度の高いサークルですが、決して無秩序ではありません。サークルの活動は決められたルールに基づいておこなわれます。また、ホラクラシー組織に役職はありませんが、サークルを運営するために必要な以下の3つの役割があります。
- リードリンク
目的達成のために、戦略づくりや重要視指針の作成、優先順位の判断などをおこなうのが、「リードリンク」です。従来のマネジャーのように、スタッフに役割を与えて、仕事を円滑に進めていきます。
- ファシリテーター
「ファシリテーター」の役割は、プロジェクトなどがきちんとおこなわれているかをチェックしたり、調整したりすることです。会議では、参加者の意見を公平に聞き、合意形成を促す司会役を務めます。
- グループセクレタリー
サークル内での秘書的な役割を果たすのが「グループセクレタリー」です。文書や資料の作成・管理、会議の準備など、従来の秘書のような特定の上司につくのではなく、サークル内のさまざまなサポート業務をおこないます。
「ホラクラシー組織」が注目されてきた背景
従来の会社組織とは様相が異なる「ホラクラシー組織」。この形態が注目され導入する企業が増えている背景とは、どのようなものでしょうか?
例えば会社で、このような経験はありませんか?
- 同僚たちで考えた新規企画案を部長に提出したのに、なかなか結論が出ず自然消滅してしまった。
- 部長は興味を示したのに、取締役には理解が得られずに実現できなかった。
- 企画案は承認されたのに、実施まで時間がかかりビジネスチャンスを逃してしまった。
このように、これまでの会社組織では、上司や幹部の才覚や決定までに要するプロセスが原因で成功したであろうプロジェクトが実現できなかったり、失敗してしまったりすることが少なくありません。
今や同じ製品やサービスを提供していれば、会社経営が安定できる時代ではありません。情報化社会の中で新しい業態が出現している時代です。情報を的確に捉え、迅速に製品やサービスを提供することが求められています。そのためには、現場の声がスピーディに反映できる組織作りが重要です。
つまり、ホラクラシー組織が注目される背景には、このようなニーズがあるのです。
「ヒエラルキー組織」との違い
ホラクラシー組織と比較されるのが「ヒエラルキー組織」です。ピラミッド型の階層組織で、「社長」「専務」「常務」「部長」「課長」「係長」「一般社員」など階層によって役職が決められています。
多くの企業は、このヒエラルキー組織の中で会社を運営しています。経営方針や構造改革などを企業の上層部が、トップダウン方式で社員に通達し実践していくスタイルです。最近では、社員の意見を汲み上げるボトムアップ方式を採用する企業も増えています。
しかし、ピラミッド型の構造に変わりはないので、あくまでもプロジェクトなどの決定権は管理職に委ねられます。
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「ティール組織」との違い
ホラクラシー組織と類似した考え方に「ティール組織」があります。これは、2014年に出版されたフレデリック・ラルー氏の著書『Reinventing Organizations』の中で初めて紹介されました。
ティール組織は、「個人が意思決定できるフラットな組織」です。ホラクラシー組織と同じように感じますが、ティール組織には、ホラクラシー組織におけるサークルのような仕組みはありません。
あくまでも個々が主体で、セルフマネジメント(自主経営)・ホールネス(全体性)、エボリューショナリーパーパス(進化する目的)という3つ要素で成り立っています。簡単に言うなら、個人が主体となって各メンバーの多様性を認め、組織の存在目的を追求する。
これが、ティール組織での個人の在り方です。そして、リーダーは「指導する人」ではなく「耳を傾ける人」という位置づけになります。ティール組織を運営するにはそれぞれのコミュニケーション力が重要になることは言うまでもありません。
「ホラクラシー組織」のメリット
では具体的に、ホラクラシー組織にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
迅速な対応で生産性が向上する
従来型の組織では、上司への報告や確認、承認など実行するまでに多くのプロセスがあり、必然的に時間がかかりました。ホラクラシー組織では、このような時間の無駄がなく、迅速な対応が可能です。その結果、生産性も大幅に向上します。
社員の主体性や責任感が増す
企画案や改善案を提出しても実現するかは全て上司の裁量次第では、仕事に対するやる気も薄れがち。さらに、「上から言われた仕事だから」と責任感も希薄に。ホラクラシー組織なら、自分たちで決めた仕事なので主体性や責任感が大きくアップします。
社内が活性化する
ホラクラシー組織では、従来のような形式的な会議はありません。社員ひとりひとりがサークルで積極的に意見交換していきます。自分が思ったことを自由に発言できる場は、ストレスもなく、おのずと社内も活性化していきます。
「ホラクラシー組織」のデメリット
メリットの多いホラクラシー組織ですが、いくつかのデメリットも考えられます。
浸透するまで時間がかかる
ホラクラシー組織の構築は、従来の階層組織からの大きな変革です。そのためには、管理者も含めた社員全員が意識を変えていく必要があります。しかし、従来の役職に満足している人からの反発もあるでしょう。
また、従来型の組織に慣れてしまった社員の中には、主体性や責任感を持たされる不安もあるかもしれません。このような反発や不安を解消するまでには多くの時間が必要です。
組織の管理が難しくなる
社員ひとりひとりの主体性を重視して仕事を進めるのがホラクラシー組織ですから、社員を信頼して仕事を任せるのが基本。そのため、どうやって社員の理解度や能力を見極めるかが大きな課題です。
経営人は「個人の裁量に任せる」という、ある意味「性善説」の立場になるので、実際「仕事しているふり」の社員がいたとしても把握は困難です。また、サークルの数が多くなる大企業では、サークル間の格差も大きな問題になる可能性があります。
「ホラクラシー組織」を導入する時の注意点
ホラクラシー組織にはメリットとデメリットがありますが、これらを踏まえ、実際に導入する時の注意点をあげてみます。
小さな範囲から始める
ホラクラシー組織は、従来の仕事のやり方を大きく変えるものですから、一気におこなうと大きな混乱を引き起こす危険性があります。そのためには、全ての部署でなく、特定の部門や部署に限定した小さな範囲から始めるのがベストです。
小さな範囲で成功事例を積み上げることで社内での理解度もアップし、円滑に移行することが可能になります。
社員の適性や能力を見極める
ホラクラシー組織を導入するときは、まず社員の適性や能力を見極めることも重要です。成功事例をつくるためには、ホラクラシー組織に適した社員のサークルを作るのが最優先です。主体性やコミュニケーション能力がある社員が望まれます。
やる気のない社員がひとりでもメンバーにいるとホラクラシー組織づくりの妨げになります。まずは、理想的なメンバーの姿を示すことが大切です。
必要な情報をオープンにする
ホラクラシー組織には役職がないため、責任の所在や業務の振り分けなどが見えにくくなります。それぞれのメンバーがどのような業務を担当し、責任者が誰なのかを明確に知ることが重要なポイント。誰もが必要な情報を得られるオープンな仕組みが必要です。
「ホラクラシー組織」を導入している企業例
ホラクラシー組織は、これからの時代に対応した組織として注目されていますが、全ての企業に適しているわけではありません。ここでは、ホラクラシー組織を導入して成功している企業の例を紹介します。
ザッポス社(Zappos)
ホラクラシー組織を導入した企業として有名なのが、アメリカのアパレル関連の通販サイト「ザッポス社(Zappos)」です。創業10年で年商1000億円を超え、Amazonに800億円でされたことでも有名な企業です。
ホラクラシー組織を導入する際には、権限が奪われることを不安に思ったマネジャーをはじめ社員の18%が退職しました。しかし、社員たちの自由度が広がったことで業務の効率が大幅に向上したようです。
株式会社アトラエ
日本においていち早くホラクラシー組織を実践したのが、2003年10月に設立した「株式会社アトラエ」です。成功報酬型の求人メディア「Green」やビジネスパーソン向けのマッチングアプリ「yenta」などの事業で大幅に実績を伸ばしています。
平均年齢29歳という約50名の社員で構成される組織には役職がなく、プロジェクトリーダーを中心にチーム単位で仕事を推進しています。社長や役員も単なる「役割」であるという発想のもと、出勤時間も社員のコミットにより自由に決められています。
もっとも大きな特徴は、給与は「360度評価」という評価に基づいて決められることです。社員は自分が評価して欲しい5名を選び、表面的な数字だけでなく、組織への貢献度などさまざまな観点から評価され、金額が決められます。
まとめ この記事のおさらい
- ホラクラシーとは、役職や階級などの上下関係のない組織経営の考え方。
- ホラクラシーの考え方に基づいて運営されるのが、「ホラクラシー組織」で、意思決定は、役割ごとのグループ単位でおこなわれます。
- ホラクラシー組織が注目される背景には、現場の声がスピーディに反映できる組織へのニーズが。
- ヒエラルキー組織は、ピラミッド型の階層組織。
- ティール組織は、個人が意思決定できるフラットな組織。
- ホラクラシー組織のメリットには、「迅速な対応で生産性が向上する」「社員の主体性や責任感が増す」「社内が活性化する」などがあります。
- ホラクラシー組織のデメリットは、「浸透するまで時間がかかる」「組織の管理が難しくなる」など。
- 導入するときの注意点には、「小さな範囲から始める」「社員の適性や能力を見極める」「必要な情報をオープンにする」などがあります。
- 導入した企業例では、「ザッポス社(Zappos)」や「株式会社アトラエ」などが。