※本サイトはプロモーションを含んでいます。
「卑下(ひげ)」とは自分自身を必要以上に見下していやしめることをいいます。
自分の価値を低く見るという意味では「謙遜(けんそん)」の類義語ですが、厳密には「卑下」と「謙遜」とではニュアンスが違います。
この記事では「卑下」の意味や語源、使い方をはじめ、類語の「謙遜」と「自虐」との意味の違いと使い分けなどについてくわしく解説いたします。
「卑下」の意味とは
「卑下」は「自分自身の価値を低く見てへりくだった態度をとること」または「相手が劣っているものとして見下すこと」を意味します。
「卑下」の語源と背景
「卑下」の「卑」は訓読みで「いや(しい)」と読みます。
「卑」は「身分が低い」「道徳や品格に乏しい」「媚びへつらう」などの意味を持つ常用漢字です。
「卑」の由来は酒をくむ器の柄を手に持った形をあらわす象形文字で、「神事に用いる祭器よりも格式が劣る器」という意味から「いやしい」という意味になったとされています。
次に「卑下」の「下」は形がないものを指で表現した指事文字で、横棒の下に線を描くことで「位置や身分などが低い方=下」をあらわす文字として成立しました。
「卑下」は「卑」と「下」という同じような意味の漢字をふたつ合わせて、「自分の価値や身分を下に見てへりくだること」あるいは「相手を劣ったものとして見下すこと」をあらわします。
「卑下」と同じく「卑」を含む熟語に「卑屈」があります。
「卑屈」は「自分自身を必要以上に低く見ること」「いじけること」をあらわします。
「卑屈」は自分自身に対するいじけた認識や行動を意味する言葉で、他人を低く見ることは含まれません。
「卑下」も現代では「自分自身を必要以上に低く見ること」という意味で用いられますが、原義的には「自分以外の者を見下す」という意味も含まれます。
「卑下」の使い方とビジネスでの例文
「卑下」は名詞と形容動詞の両方で使える言葉です。
「卑下」は語尾に動詞の「する」をつけて「卑下する」という表現で用いられます。
一般的な意味は前述のように「自分自身を必要以上に見下す」ことですが、原義的には「自分より劣る相手を見下す」という意味で使っても間違いではありません。
そのため「社長は卑下しておられました」のように目的語を省略した文章では、「社長が自分を卑下していた」のか、それとも「社長が誰かを卑下していた」のか判別できません。
そのような混乱を避けるために「社長はご自分を卑下しておられました」のように「卑下」の対象となる目的語を忘れずに加えることが大切です。
- 経理部長は社長に月次決算書の記帳ミスを指摘されると、自分を卑下するように平身低頭して謝罪した。
- いくら自分が上司だからといって部下を卑下してよいというわけではない。
自己紹介やスピーチでの「卑下」の使用
自己紹介やスピーチの場では、過度な自己PRを控えて謙虚に自分を卑下することで相手に控えめな人物という印象を与える効果があります。
ただし自己卑下も度が過ぎると「言葉通りに劣っている」とみなされて逆効果になる可能性もありますので気をつけましょう。
なお自己紹介やスピーチの中で「卑下」という言葉を使う場合は注意が必要です。
話の中で「卑下(ひげ)」というと、相手は「髭(ひげ)」を連想してしまうかもしれません。
会話やスピーチで「卑下」や「卑下する」というときは誤解されないように言葉を換えるか、注釈を加えるのがおすすめです。
「卑下」を使った謙遜とその効果
日本の社会では古くから「卑下」は望ましい謙遜行動として、学校や職場の情操教育に取り入れられてきました。
適切な「卑下」は相手に敬意を示すとともに、低い自己観を共有することで過剰な自己アピールを排除できる効果があります。
また近年ではSNSなど匿名性が高いメディアでも自分の失敗や挫折を自己卑下的に表明することでフォロワーの好感度を高めようとする行動が見られます。
日本人にとって自分を他者より低く見る自己卑下は、相手に謙虚な印象を与えると同時に「私が力になりますよ」というサポート的な反応を引き出せるという意味で二重に効果的な対人戦略といえるでしょう。
欧米社会のように自己卑下を自信のなさの表れとして否定的に評価する反応は日本では見られません。
謙遜と卑下の精神は日本人の倫理観の根幹をなす社会的な規範といえるでしょう。
「卑下」の使用における注意点
「卑下」という言葉には「必要以上に自分を低く見ること」という意味があります。
相手に敬意を示すために自分を卑下するのは典型的な謙遜行動ですが、やりすぎには注意が必要です。
「卑下も自慢のうち」ということわざがあります。
「謙遜も度が過ぎると、自慢しているのと同じことになる」という意味です。
例えばある企業のワンマン社長が末端の社員に対して、「社長が私のような愚か者でも会社がこうして成り立っているのは、君たち一人一人の社員が優秀だからです」と激励したとしましょう。
このとき社長は内心では『自分は社長だ、王様だ』と思いながらも、口では自分は愚か者だと卑下することで、社員から「またまたご謙遜を。今の会社があるのは社長様の優れた経営手腕があってこそですよ」といった賛辞を引き出そうとしているのかもしれません。
社長が本気で社員を褒めたとしても、企業のトップが末端の部下の前で過度に自己卑下すると、部下たちはどう答えたら良いかわからず、不必要に気を遣わせてしまうかもしれません。
このような卑下を「逆マウンティング」や「卑下型マウンティング」といい、自覚のないハラスメントとして問題視されることもあります。
自分より立場が上の人に対して謙虚にふるまうのは礼儀にかなった行為ですが、逆の立場で自己卑下するとかえって逆効果になってしまうかもしれません。
「何事もほどほどが肝心」だと心得ましょう。
「卑下」の類語と使い分け
「卑下」と同じような意味の類語に「謙遜(けんそん)」「自虐(じぎゃく)」「卑屈(ひくつ)」があります。
「卑屈」は「必要以上に自分をいやしめること」「いじけて相手に屈服したり媚びへつらったりするさま」を意味する言葉です。
「卑屈」には名詞と形容動詞があります。
動詞として使う場合は「卑屈になる」と表現します。「卑下」と違って「卑屈する」という言い回しはできません。
「謙遜」とは「相手にへりくだること」「控えめにふるまうこと」を意味する言葉です。
「自虐」とは自分で自分を責めさいなんで心身を痛めつけることをいいます。
「謙遜」と「卑下」の違い
「謙遜」と「卑下」はどちらも「相手にへりくだること」ですが、ニュアンスには微妙な違いがあります。
まず「謙遜」とは「相手に敬意を示すためにへりくだる」という意味で、基本的に礼儀正しく模範的な態度というニュアンスがあります。
一方、「卑下」は「自分自身を必要以上に貶める、度が過ぎた謙遜」という「やり過ぎ感」のある言葉です。
「謙遜」と「卑下」を使う際は、ふたつの言葉のニュアンスの違いに注意しましょう。
「卑下」と「自虐」の使い分け
「卑下」の品詞には名詞と形容動詞があります。
動詞として使う場合は「卑下する」と表現します。
一方、「自虐」は名詞で形容動詞としての用法はありません。
したがって「自虐する」「自虐になる」といった使い方はできません。
「自虐」を動詞として使う場合は「~的」を加えて「自虐的になる」という言い回しで用いるのが一般的です。
「卑下」は自分を含む誰かを過度に見下すことですが、「自虐」は自分で自分を責め苛んで苦しめることをいいます。
「自己卑下」は劣等コンプレックスに起因する自己否定であり、「自虐」は自分自身に対する精神的肉体的な虐待です。
「卑下」と「自虐」を使い分けるときは上述した意味の違いに注意してください。