をば|意味や使い方、実際に使用されている古文の例文を紹介

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この記事では「をば」の意味や使い方について解説いたします。

古文や歴史本などで見かけたことがあるという人もいるでしょうが、その意味や使い方は少しわかりにくいかもしれません。

そこで今回は「をば」の意味や使い方、「をば」が使われている古文の例文なども含めて取り上げました。

この記事を通して「をば」への理解が深まれば幸甚です。

「をば」の意味と使い方


「をば」は、格助詞「を」に係助詞「は」の濁音「ば」が付いた連語です。

動作や対象のものなどを、特に取り立てて強調したい場合に使います。

短歌の五句体を整えるため、小説の文章のリズムを整えるため、などの際にも用いられることがある言葉です。

したがって「をば」の意味は「を」と同じだといえます。

なお「格助詞」は「かくじょし」と読み、主に名詞や代名詞などの体言に付き、その語が文の中で持つ意味の関係(格)を表す助詞のことです。

また「係助詞」の読み方は「かかりじょし」や「けいじょし」で、文中または文末に用いて問題や強調、疑問となる点などを示す助詞のことをいいます。

例えば「ご連絡をばお待ちしております」のように使い、この場合は「ご連絡をお待ちしております」という意味です。

「をば」は現代でも使われる?

「をば」は古文や文語の詩歌に用いられた古語の一つですが、現代でもあえて古風な言い方をして印象を強めるなどの目的で口語、文語ともに使われることがある表現です。

例えば「失礼をばいたしました」は、「大変に失礼をいたしました」といった意味で使われます。

上記の表現は「失礼をば」で止めることもありますが、意味は「失礼をばいたしました」と同じです。

また「をば」が使われた古文を現代語に訳すときは、「を」に言い換えることができます。

ただし強調の意味合いやリズムが失われるときには、前後の文脈に応じてそのまま残しても差し支えないです。

「をば」が使われている古文の例文

秀逸
「をば」は多くの古文で使われてきた表現です。

しかしながら、実例がないとどのように使われてきたのか今一つ理解できないという人もいることでしょう。

そこでこの項目では、「をば」が実際に使われている例として4つご紹介します。

「竹取物語」

「竹取物語」(たけとりものがたり)は平安時代初期に成立した日本の物語で、成立年、作者ともに未詳です。

竹取の翁(たけとりのおきな)によって光り輝く竹の中から見出され、翁夫婦に育てられた少女かぐや姫を巡る物語で、日本最古の物語とされています。

9世紀後半から10世紀前半頃に成立したとされ、かなによって書かれた最初期の物語の一つです。

現代では「かぐや姫」というタイトルで絵本・アニメ・映画など様々な形で人々に親しまれています。

その中に「名をば、さぬきの造(みやつこ)となむいひける。」という一節がありますが、これは「竹取の翁の名前はさぬきのみやつこと言いました。」という意味です。

なお「さぬきの造」は竹林で「かぐや姫」を発見した翁のことを指します。

翁が竹林に出かけると光り輝く竹があり、不思議に思って近寄ってみると中には三寸(約 9 cm)程の可愛らしい女の子が座っていました。

老夫婦は自分たちの子どもとして大切に育てることにし、そこから「竹取物語」の話は始まります。

「伊勢物語:芥川」

「伊勢物語」は平安時代に成立した日本の歌物語です。

平安時代初期に実在した貴族である在原業平を思わせる男を主人公とした和歌にまつわる短編歌物語集で、主人公の恋愛を中心とする一代記的物語でもあります。

「竹取物語」と並ぶ創成期の仮名文学の代表作で、現存する日本の歌物語中最古の作品です。

その「伊勢物語」の中に載っている説話である「芥川」には、「女をば奥に押し入れて、男、弓、やなぐひを負ひて戸口にをり、はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、鬼はや一口に喰ひてけり。」という文章があります。

これは「女を奥に押し入れて、男は、弓、胡簶(矢を入れる道具)を背負って戸口に座り、早く夜も明けてほしいと思いながら座っていたところ、鬼がたちまち(女を)一口に食べてしまった。」という意味です。

なお「芥川」は高校古典の教科書などでも取り上げられることがありますが、教科書によっては「白玉か」という題名のものもあります。

「万葉集」の短歌

「万葉集」は奈良時代末期に成立したとみられる日本に現存する最古の和歌集で、「万葉集」の和歌はすべて漢字で書かれています。

全20巻4,500首以上の和歌が収められており、以下の3つのジャンルに分けられているのが特徴です。

「雑歌(ぞうか)」宴や旅行での歌
「相聞歌(そうもんか)」男女の恋の歌
「挽歌(ばんか)」人の死に関する歌

なお日本の元号「令和」は「万葉集」の「巻五 梅花の歌三十二首并せて序」の一節を典拠とし、記録が明確なものとしては日本史上初めて元号の出典が漢籍でなく日本の古典だとされているのは有名な話です。

また「万葉集」の第18葉(巻2・87)には、「をば」が使われている以下の和歌があります。

ありつつも 君をば待たむ うちなびく わが黒髪に 霜のおくまで

これは「このままここにいてあなたを待ちましょう。うちなびくわが黒髪に霜が置くまで」という意味です。

「黒髪に霜がおく」とは「白髪になるまで」ということを意味しています。

この歌は「仁徳天皇」の皇后である「磐姫皇后」(いはのひめのおほきさき)が天皇を思って詠んだもので、「恋ひつつあらずは 高山の 岩根しまきて 死なましものを」の歌を受けての歌です。

「あなたを」という意味で「君をば」が使われており、五・七・五・七・七の五句体の調子を整えるために用いられていて、君の語も強調されています。

「即興詩人」

「即興詩人」はデンマークの作家である「ハンス・クリスチャン・アンデルセン」が1835年に発表した小説です。

作者の初めての長編小説で、イタリア各地を舞台としたロマンティックな作品としても知られています。

イタリア各地の自然と風俗を美しく描いたこの作品は発表当時かなりの反響を呼び、ヨーロッパ各国で翻訳出版されることになり、それが作者の童話出版に向けての意識を高めるものとなったのです。

日本ではそれを「森鴎外」が約十年の年月を費やして翻訳しましたが、その中で「をば」が以下のように用いられました。

天をば黄金色ならしめ、海をば藍碧色(らんぺきしょく)ならしめ、海の上なる群れる島嶼(とうしょ)をば淡青(たんせい)なる雲にまがはせたり。

これは大正から昭和前期の歌人である「斎藤茂吉」の「ヴエスヴイオ山」でも、良い文章だということで引用されています。

なお上記の典雅な擬古文訳は非常に有名で、「原作以上の翻訳」と評されました。

「森鴎外」は本作のドイツ語訳を読み、「わが座右を離れざる書」として愛惜していたとされています。

まとめ この記事のおさらい

・「をば」は格助詞「を」に係助詞「は」の濁音「ば」が付いた連語で、意味は「を」と同じ

・「をば」は動作や対象のものなどを、特に取り立てて強調したい場合に使う

・「をば」は古文や文語の詩歌に用いられた古語の一つだが、現代でもあえて古風な言い方をして印象を強めるなどの目的で口語、文語ともに使われることがある

・「をば」が使われている古文としては、「竹取物語」や「伊勢物語:芥川」、「万葉集」の短歌や「即興詩人」といったものが挙げられる