ここでは四字熟語の「大義名分」について解説いたします。

「大義名分」というと、一般には自分勝手な口実や言い訳のように思われがちですが、本来の意味はそうではありません。

犯罪者や政治家の無責任な口実が「大義名分」だと思っていると大きな誤解を招いたり、人に迷惑をかけたりすることになりかねません。

そこで、ここでは大義名分の語源や類義語も含めて正しい意味と用法をくわしく解説してゆきます。どうぞ最後までお読みください。

大義名分の読み方・意味・使い方

「大義名分」は「たいぎめいぶん」と読みます。意味は「人として守るべきこと」「何かを行うにあたって、その正当性の根拠となる理屈や道理」などをあらわします。

最近では「大義名分」というと「スキャンダルの無責任な言い逃れ」や「悪徳政治家の開き直り」といった悪いイメージが強くなっています。しかし、もともとの意味には身勝手で卑怯なニュアンスはありません。

口実は口実でも、決してやましいことではありません。それが大義名分の正しい意味です。

大義名分の語源

「大義名分」という言葉は、古代中国の思想家、孔子(こうし)が説いた「儒教」という思想に由来します。

儒教で倫理の基本とされているのは、父子や兄弟など家族の上下関係をきびしく守ること。子は何があっても決して父に逆らわず、弟は父や兄に忠実でなければなりません。

家族は社会を構成する最小単位の組織です。それゆえに家族の秩序を維持することは国家の秩序を維持することにも通じると孔子は考えていました。

この思想は古代中国をはじめとする儒教の文化圏に広く浸透し、年齢や身分の上下関係や、主君と家臣という階層的な主従関係の規律を守ることが国家の秩序維持に必要な「大義」とされるようになりました。

「大義」とは、大きな正義を意味します。中国では家族の上下関係が最も重要な「大義」でしたが、日本の武家社会では、君主に対する絶対的な忠誠こそが最も重要な「大義」とされました。

次に「大義名分」の「名分」は、「各自の社会的な地位(=名)」にふさわしい「役割(=分)」を意味します。つまり「さまざまな地位や立場にある者がそれぞれに守るべき道義」という意味です。

中国では「名分」はそれほど重視されませんでした。一方、日本では、君主と臣下の主従関係における秩序や礼節を特に重んじるようになりました。

中でも儒教から派生した朱子学派が唱えた「大義名分論」は、江戸時代になると日本独自の封建的な道徳観に変質してゆきます。

日本で広まった大義名分論は「家臣は君主に服従し、部下としての役割(=分)を命がけで果たすべきだ」と主君に対する絶対的な忠誠心を強調する教えです。

江戸時代には大義名分論が武士道の規範となり、「幕府は朝廷から国の統治を委任された正統な為政者である」という理念のもとに幕府の統治を正当化する道義的な根拠になっていました。

ところが幕末になると大義名分論は尊王派に論破され、「幕府は朝廷に仕える身だから、朝廷に絶対服従すべきである」という理屈によって、今度は倒幕運動を正当化する根拠になるという皮肉な展開になりました。

現代社会で「大義名分」といえば、もはや国家の秩序や主従関係とは関係なく、自分の言動を正当化する口実の意味で用いられています。

「大義名分」がこのような意味に変化したのは、江戸時代に幕府の統治を正当化した「大義名分論」が、幕末には一転して倒幕運動の正当化に利用されてしまったことも、ひとつの要因かもしれません。

大義名分のビジネス上での使い方

ビジネスシーンで「大義名分」を使う場合は、「何かをするときに、その正当性の根拠となる口実や建前」という意味をあらわすのが一般的です。

ビジネスの場では主従や上下の関係性や規律が何かと重視されますが、「大義名分」がかつてのような服従精神や封建的な道徳観を意味することは、現代ではほとんどありません。

注意すべきは、大義名分の口実や建前は決して嘘やデタラメではない、ということです。たとえ口実や建前だとしても、動機としての正当な根拠や説得力がなければ、「大義名分」とは言えません。

たとえば「今日は仕事をしたくなかったので、仮病を大義名分にして休みをとった」というのは誤った表現になります。仮病はその場しのぎの嘘であり、仕事を休む正当な理由とは言えないからです。

それを踏まえて、次に具体的な用例を見てみましょう。

「大義名分のもと」の意味と例文

ビジネス上で「大義名分」を使う場合は、「○○という大義名分のもと」という表現が、一般的な用法のひとつになります。

例文

昨日は久しぶりにゴルフをしたくなって、取引先の『接待』という大義名分のもと、 1.5ラウンド回ってしまった。

この例文では「接待」がゴルフをするための「大義名分」にされています。とはいえ実際に「接待」したのも事実。「大義名分」は嘘やごまかしの意味ではないことに注意してください。

「大義名分が立つ」の意味と例文

ビジネスでは「大義名分が立つ」という表現もよく使われます。この「立つ」は「成り立つ」の省略と考えて良いでしょう。

例文

社内環境の改善案としては、まず第一に無駄な労力の削減をあげるべきだろう。それなら人件費削減や働き方改革の推進という大義名分が立つ。

この場合も、「人件費削減や働き方改革の推進」が、社内環境改善の口実になっていますが、かといって「人件費削減や働き方改革の推進」にならない、という意味ではありません。

「社内環境の改善案」の第一目的はほかにあるけれども、それを実現すれば同時に「人件費削減や働き方改革の推進」にもなる、という意味です。

大義名分の類義語と例文

大義名分と同じような意味の類義語としては、「金科玉条」と「錦の御旗」をあげることができます。

「金科玉条(きんかぎょくじょう)」は中国・前漢時代の文人、揚雄(よう ゆう)が記した「劇秦美新(げきしんびしん)」に由来する言葉です。

本来は「最も守るべき重要な法律や規則」という意味ですが、現代では、大義名分と同じように「自分の言動や立場を守るための絶対的な拠り所になる理屈や根拠」という意味で使われています。

「錦の御旗(にしきのみはた)」は、赤い錦に太陽と月を金と銀で刺繍した豪奢な旗のこと。鎌倉時代から、官軍が朝敵を征討する際に旗印として用いたことから、自分の言動を正当化したり権威づけたりするための口実を意味するようになりました。

「金科玉条」の例文

働き方改革が法制化されて以来、「ノー残業」が会社の金科玉条になる一方で、残業対象にならない管理職が時間外労働を強いられるようになっている。

大義名分の英語表現

大義名分を英語で表現する場合、「正当な理由」や「よっぽどの事情」を意味する「good reason」「good cause(s)」「just cause」「legitimate reason」などをあげることができます。
また、「~という大義名分のもと」という表現は、「in the cause of」「 on the pretext of」という言葉がよく使われます。

一方、「ずるい口実」というニュアンスでは、「政治的な口実」を意味する「political cover」もよく使われる表現にあげられます。

まとめ

「大義名分」は「人として守るべきこと」「何かを行うにあたって、その正当性の根拠となる理屈や道理」などをあらわす言葉です。
「大義名分」はもともと君主に対する忠誠や家臣が守るべき道義を示す言葉でした。
ビジネスシーンでは「大義名分」は「口実」や「建前」の意味で使われますが、嘘や偽りの意味ではありません。