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ここでは四字熟語の「八面六臂」について解説いたします。
「八面六臂」というと、むかし習ったので読み方はわかるけれども意味はさっぱり思い出せない、という方も多いのではないでしょうか。
「八面六臂」のような難読漢字は、スマホ時代のコミュニケーションにマッチしないかもしれません。でも、このように古くから伝わる言葉には、知れば知るほど語りたくなる蘊蓄(うんちく)がたくさん詰まっているのも確かです。
そこで今回は「八面六臂」に焦点を当てて、意味や用法などを掘り下げてみました。是非最後までお読みください。
八面六臂の読み方・意味・使い方
「八面六臂」は「はちめんろっぴ」と読みます。意味としては「ひとつの体に八つの顔と六本の腕を備えた仏像や塑像のこと」「幅広いジャンルで活躍できる人のこと」「一人で何人分も働ける人のこと」などをあらわす言葉です。
現在では「八面六臂」を仏像や塑像の意味で用いることはありません。ほとんどの場合、マルチな技能と才能を発揮する人を比喩的に表現するために用いられます。
単に趣味が多いだけの人や、いろんなバイトをした、というレベルでは「八面六臂」とはいえません。
歴史上の人物を例にとると、幅広い学術に偉業を残したレオナルド・ダ・ヴィンチや、生物学者の南方熊楠(みなかたくまぐす)などは、まさしく「八面六臂」と表現するにふさわしい天才といえるでしょう。
八面六臂の語源は仏像が関係している
前述したように「八面六臂」は、現在ではおもにマルチな才能の持ち主をあらわしますが、もとの意味は「八つの顔と六本の腕をもつ仏像や塑像」のことをあらわします。
「面」という字は「顔」のことを、「臂」という字は「肘(ひじ)」や「腕」を意味します。さらに「多くの顔=多くの肩書き」「多くの腕=多彩な技能」のように意味が変化して、「八面六臂」は「高い技能を多方面で発揮できる人」をあらわす言葉になりました。
「八面六臂」と「三面六臂」の違い
「八面六臂」とよく似た言葉に「三面六臂」があります。意味は「ひとつの体に三つの顔と六本の腕を備えた仏像などの塑像」や「幅広いジャンルで活躍できる人」「一人で何人分も働ける人」などをあらわします。顔の数以外は「八面六臂」の意味と同じです。
もともと「八面六臂」は「三面六臂」が変化して生まれた言葉です。「三面六臂」は興福寺の阿修羅像に代表される「ひとつの体に三つの顔と六本の腕を備えた塑像」をあらわす言葉です。それが後世になって「幅広いジャンルで活躍できる人」の意味になりました。
厳密には、阿修羅像の三つの顔は全方向を見られる視野の広さを意味するものではありません。三つの顔はそれぞれ少年期、思春期、青年期という三段階の成長と心の変化を表現していると言われています。
また阿修羅像の六本の腕にもそれぞれ宗教的な意味があります。最も手前の両手は合掌し、真ん中の両手は日蝕と月蝕をあらわす日輪と月輪を持っています。奥の両手は宝弓を構えています。「宝弓(ほうきゅう)」と「宝箭(ほうせん)」という矢をかまえています。
宝弓と宝箭は「降魔(ごうま)」すなわち「悪魔を降伏させること」と「除災(じょさい)」などを象徴していますが、興福寺の阿修羅像については、日輪月輪と宝弓宝箭は現存せず、六本の腕はポーズだけで、手には何も持っていない状態になっています。
「三面六臂」は「顔三つに腕六本」という阿修羅像の特徴的な外観から、「顔が多い=視野が広い」「腕が多い=何でもできる」という世俗的な誤解が広まり、やがて「一人で何人分も働ける人」をあらわす言葉に変容していったのかもしれません。
「三面六臂」が「八面六臂」に変化したのも、日本では「八方美人」や「八方ふさがり」というように、全方向を示す意味で「八方」がよく使われるため、「三面」より「八面」の方が全方位らしい、という連想によるものと考えられます。
このように「八面六臂」は「三面六臂」から変化していった言葉です。古い仏像や塑像には「三面六臂」の作品は興福寺の阿修羅像をはじめいくつも存在しますが、「八面六臂」の作品は実際には存在しないと言われているのも、そのためです。
八面六臂のビジネス上での使い方
ビジネスシーンでも、複数の仕事を同時並行してやってのける人を賞賛して「八面六臂」と言うことはよくあります。その場合、「彼は八面六臂だ」という言い方ではなく、「八面六臂の働き」「八面六臂の大活躍」というように「働き」や「活躍」などの名詞や動詞をつけるのが一般的です。
「八面六臂の働き」の意味と例文
「八面六臂の働き」は、学術や仕事で多方面にわたり、すぐれた働きを示すことを言います。その例文を以下に示します。
「八面六臂の活躍」の意味と例文
「八面六臂」で表される人が幅広い分野にわたって、めざましく活動している場合は、「八面六臂の活躍」という表現がふさわしいと言えるでしょう。その例文を以下に示します。
八面六臂の類義語と例文
「八面六臂」の類義語としては、「縦横無尽」や「獅子奮迅」があげられます。
「縦横無尽」は、「何事にも束縛されず、何事も自分のやりたいように取り組めることを意味します。「獅子奮迅」奮い立った獅子のように猛烈な勢いで活躍することを意味する言葉です。
獅子奮迅と縦横無尽の例文
彼は郷里の地域振興を推進するために獅子奮迅の努力を重ね、多方面の人脈と縦横無尽に連携している。
八面六臂の英語表現
八面六臂を意味する英語表現としては、「all round」「herculean effort」「Jack of all trades」「multitasker」「versatile」などをあげることができます。
「all round」は「万能」「多芸な」「全般にわたる」などの意味があります。
また、「all around worker」で「万能の工員」、「all round man」で「何でも屋」をあらわします。
「herculean effort」は「ヘラクレスのように超人的な努力」を意味します。
「Jack of all trades」は「何でも屋」の意味ですが、語源の「Jack of all trades but a master of none.」というイディオムには「広く浅い知識はあるが、専門的な知識はない人=多芸は無芸」という意味があります。
そのため「Jack of all trades」も単なる「何でも屋」というよりも「器用貧乏」に近い批判的なニュアンスがあります。
「multitasker」は「複数の仕事をこなせる人」、「versatile」には「多目的・多用途の」「万能の」「融通が利く」などの意味があります。
まとめ 八面六臂についてのおさらい
- 「八面六臂」は意味としては「ひとつの体に八つの顔と六本の腕を備えた仏像や塑像のこと」「幅広いジャンルで活躍できる人のこと」をあらわす言葉です。
- 「八面六臂」の語源の「三面六臂」は三面の顔と六本の腕を持つ仏像の様式から生まれた言葉です。
- 「八面六臂」の英語表現には、「all round」「herculean effort」「Jack of all trades」「multitasker」「versatile」などがあります。