ここでは「吝嗇」という言葉について詳しく解説いたします。

「吝嗇」は現代人にはなじみの薄い言葉ですが、明治から昭和にかけての文学作品などでは比較的よく見られる言葉です。

たとえば石川啄木の小説「雲は天才である」では、「吝嗇」が「しみったれ」というふりがなをつけて用いられています。また梶井基次郎の「泥濘」には、吝嗇に「けち」というふりがなが添えられています。

「しみったれ」も「けち」も「吝嗇」の正しい読みではありませんが、意味はまさにそのとおりです。

この記事では「吝嗇」の正しい読み方をはじめ、類義語、対義語、英語表現など例文を交えて多角的に解説しています。最後までお読みいただければ幸いです。

吝嗇の読み方・意味・使い方

「吝嗇」は「りんしょく」と読みます。

前述の「しみったれ」や「けち」は、読み方としては誤りですが、石川啄木や梶井基次郎は読み方の正確さよりも言葉のニュアンスを重視して、読者に「しみったれ」や「けち」と読ませる意図があったのでしょう。

「吝嗇」の意味は「ひどく物惜しみや出し惜しみをすること」「度を超した倹約」などをあらわします。つまり石川啄木や梶井基次郎のふりがなどおり「けち」や「しみったれ」の意味になります。

吝嗇の語源

「吝嗇」の語源はあきらかではありませんが、言葉としての構成は「愛好」や「尊敬」のように同じ意味の漢字を重ねた熟語になっています。

「吝嗇」の「吝」は、訓読みでは「吝か(やぶさか)」「吝い(しわい)」などと読みます。「やぶさか」も「しわい」も、「物惜しみや出し惜しみをする」「けち」という意味の言葉になります。

現代では「吝い(しわい)」という用法はほとんど使われていませんが、「やぶさか」は「辞職もやぶさかではない」という婉曲的な肯定の話法でよく使われています。

実は「やぶさかではない」は「喜んでする」という積極的な意思を示す言葉なのですが、「○○ではない」という婉曲的な用法のせいか、「本当はやりたくないが、仕方なくやる」というり、まちがったニュアンスで用いられることが多くなっています。

次に「吝嗇」の「嗇」は、訓読みでは「嗇しむ(おしむ)」「嗇か(やぶさか)」などと読みます。意味は「吝」と同じく「物惜しみする」「けち」「やぶさか」などをあらわします。

また「嗇」を「嗇れる(とりいれる)」と読むと、「けち」ではなく「作物を収穫する」「取り入れる」ことをあらわします。この言い方は現在ではほとんど使われません。

このように「吝」と「嗇」は基本的に同じ「けち」を意味する漢字です。それを組み合わせた「吝嗇」は「けち」の意味をより強調した「どけち」的な意味を持つ言葉になります。

「吝嗇家」とは

「吝嗇」の関連語に「吝嗇家」という熟語があります。この場合の「家」は、「人の住処」や「家族」ではなく、特徴的な職能や性向の持ち主のことを示しています。つまり「画家」や「愛妻家」の「家」と同じです。

「吝嗇家」は「吝嗇な人」「けちな人」を意味します。「しみったれた家」や「けちな家族」の意味ではありませんので、まちがえないように注意しましょう。

「吝嗇」と「倹約」の違い

「吝嗇」と意味が近い言葉に「倹約」があります。この2つの言葉に意味の違いはあるのでしょうか。

「倹約」は「無駄な出費を少なくすること」を意味する言葉です。「質素倹約」というように、つましいイメージはありますが、悪い意味はありません。一方、吝嗇は「けち」「しみったれ」をあらわす言葉です。こちらはあまり良い意味とはいえません。

「吝嗇」と「倹約」のちがいを示す例として、森鴎外の小説「高瀬舟」の一節を抜粋します。

平生人には吝嗇と云はれる程の、儉約な生活をしてゐて、衣類は自分が役目のために著るものの外、寢卷しか拵へぬ位にしてゐる。
(ふだんは人に吝嗇と言われるほど倹約な生活をしていて、衣類は自分が仕事で着るもの以外は、寝まきしか作らないくらいにしている。)

この一文から「吝嗇」と「倹約」の意味のちがいがよくわかります。つまり「倹約」の度が過ぎると「吝嗇」といわれる、ということです。

吝嗇のビジネス上での使い方

前述したように「吝嗇」は「けち」「しみったれ」を意味する言葉です。

良い意味ではないので、ビジネス上で使うのは好ましくありません。ただし、どうしても「けち」「しみったれ」と言いたいときは「吝嗇」と言うほうが上品に聞こえるメリットはあります。

たとえば取引先に大幅な値引きを要求されたとき、面と向かって「このクソどけちのしみったれ野郎」とはいえません。それよりは「思いのほか吝嗇でいらっしゃる」とでも言ったほうが知的に感じられてトゲが立ちません。

ビジネスシーンは「壁に耳あり障子に目あり」です。つい何気なく口にした批判が、一番聞かれたくない相手の耳に速攻で届いてしまうことがよくあります。ネガティブな言葉は、なるべく角が立たないように言い換える習慣を身につけましょう。

吝嗇の類義語と例文

「吝嗇」の類義語としては、前述の「けち」「しみったれ」以外に「守銭奴(しゅせんど)」があります。

厳密には「守銭奴」は「金品にがめつい」というニュアンスが強く、金銭的にけちな人の意味になります。

「けち」の例文

社長がけちなのはわかっていたが、ボーナスが6回の分割払いだなんて、あんまりすぎる。

「しみったれ」の例文

私が「金持ちなのにしみったれだ」と批判する人もいるが、しみったれだから金持ちになれたんだ。

「守銭奴」の例文

ネット通販で超格安の商品を見つけて思わずポチったら送料がバカ高だったとは、いかにも守銭奴がハマりそうな落とし穴だ。

吝嗇の対義語と例文

吝嗇とは逆の意味を持つ対義語としては「太っ腹」「恬淡(てんたん)」「寛容」「任侠(にんきょう)」などをあげることができます。

「太っ腹」は「太腹(ふとばら・ふとはら)」から転じた言葉で、度量が大きいことを意味します。「恬淡(恬澹とも)」は、性格がさっぱりしていて名誉や利益に執着がないことをあらわします。「寛容」は心が広いことをいいます。

また「任侠」は、やくざのイメージがありますが、本来は、困っている人や苦しんでいる人を全力で助けようとする自己犠牲の精神を意味します。

「太っ腹」の例文

課長が部下に焼き肉をおごるのは太っ腹だからじゃありません。会社の経費で飲み食いしたいだけなんです。

「恬淡」の例文

祖母はお金には恬淡な人ですが、無駄使いや浪費は一切しません。