職場でのセクハラについては、すでに法的な定義や対策の規定化がなされていますが、近年問題化しているパワハラはいまだに定義すら定まってません。

現代社会をむしばむ問題にも関わらず、遅々として法整備が進まないパワハラについて、この記事では、その定義や対策についてご説明します。

パワハラとは

パワハラは英語の「power harassment(パワーハラスメント)」の略語です。

「power」は力、「harassment」は「いやがらせ」を意味します。

パワーハラスメントはその名の通り、力関係で優位な人が弱い人にいやがらせをすることをいいます。

パワハラが生まれた経緯

2001年にはじめてパワハラを提唱した岡田康子氏は、東京のコンサルティング会社「クオレ・シー・キューブ」の経営者です。

岡田氏は企業のセクハラ対策に取り組む中で、多くの企業で職位や職権の乱用ともいえる嫌がらせ行為が横行していることを知り、「パワーハラスメント」と名付けました。
そして2003年には著書「許すな!パワーハラスメント」(飛鳥新社)を出版します。

それをきっかけに「パワーハラスメント(パワハラ)」の問題が一般にも広く知られるようになりました。

パワハラの定義

「パワハラ」の法律的な定義はありませんが、公的な定義としては、平成24年に厚生労働省が公表した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」があります。

同報告書を要約すると、職場でのパワハラとは、職務上の地位や人間関係などの優位な立場を利用して、業務としての適正な範囲を超え、同じ職場で働く人に精神的身体的苦痛を与え、職場環境を悪化させる行為のこといいます。

また、パワハラは上司が部下に行うものだけでなく、先輩と後輩、または同僚間、さらには部下から上司に対する場合なども含みます。

参考:職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告

パワハラの事例

職場でのパワハラとは、具体的にどのようなものなのか、裁判でパワハラと認められたケースと却下されたケースを検証します。

能力の低さを理由にしたパワハラ事例

地公災基金愛知県支部長事件(名古屋高裁・平成22年5月21日判決 労働判例1013号102頁)

A市役所のB部長は典型的な「仕事の鬼」で、業務手腕に優れる一方、部下にも自分と同レベルの成果を求めがちでした。
部下を指導する際も感情的かつ高圧的に叱責することが多く、ついには部下のCがうつ病を発症し自殺する事態となってしまいました。Cの妻はB部長のパワハラが夫の自殺を招いたとして、A市に公務災害の認定を求めて提訴しました。

一審判決は「B部長の指導は不当なものとはいえない」として訴えを退けました。
しかし、二審判決は「B部長の下で仕事をすることによる心理的負荷の大きさは、うつ病や自殺の要因であったと認められる」として、Cの遺族の訴えを認めました。

失敗を理由にしたパワハラ事例

北海道銀行事件(札幌高裁平19年10月30日判決 労働判例951号82頁)

地方銀行の行員Bは、投資信託販売のノルマを達成できず、しかも休暇前の引き継ぎのまずさもあって、上司にきびしく叱責されました。
さらに顧客の解約手続きの不手際を咎められるにいたったBは、突然、業務を放棄して行方不明となり、3日後に自殺しました。
Bの遺族は、自殺の原因は業務の過重な負担にあるとして、A銀行に損害賠償を請求しました。

判決では、A銀行の上司がBに行った指導が厳しかったことは推察されるが限度を超えるとは認められず、部下の自殺の危険性までは認識できなかったとして、原告の控訴を棄却しました。

勤務態度に対するパワハラ事例

東芝府中工場事件 (東京地裁八王子支部 平成2年2月1日判決 労働判例558号68頁)

電機会社の社員Aは勤務態度の悪さや職務怠慢を製造長や作業長に叱責されて、反省のためにたびたび始末書の作成を求められていました。その後、精神に障害をきたして半月間欠勤しました。
Aは上司らの叱責により精神障害となり欠勤を余儀なくされたとして、不払い賃金と慰謝料500万円の支払いを求めて提訴しました。

判決では、被告の上司が始末書の作成を執拗に求めたのは行き過ぎであり、原告の精神的損害を賠償する義務があると認められました。
一方で、原告の勤務態度の悪さが上司の過度の叱責や執拗な追及を招いたことも否定できないとして、慰謝料は15万円が相当と認定しました。

みだしなみに対するパワハラ事例

郵便事業控訴事件(大阪高裁 平成22年10月27日判決 労働判例1020号87頁)

郵便局に勤めるAは口ひげにひっつめ髪という独特のスタイルで職務に従事していました。しかし、転勤先で「身だしなみ基準」にそぐわないとして特殊業務の夜勤番に回されました。
Aは上司の違法な人事評価によって職能資格給を停止させられたとして、手当損害額を含め慰謝料150万円を請求しました。

判決では、労働者の髪型やひげ等は本来自由に決められるべきであり、制裁として夜勤担当にすることは職務経験を広げる機会を喪失させるとされ、さらに、上司からみだしなみの改善を執拗に求められたことによる精神的苦痛を認め、慰謝料は30万円が相当であるとしました。

パワハラになる言葉

仕事上のミスや勤務態度の悪さを注意する際に、問題点そのものに言及するのは当然だとしても、「役立たず」や「給料泥棒」などといった侮蔑的な暴言を伴うのは明らかなパワハラです。

また、「上司より良い腕時計をするな」「家を新築するとは良い身分じゃないか」などの言葉も業務とは全く関係ありません。

これらは相手の人格を否定するだけでなく、周囲の人々まで萎縮させ、職場の雰囲気を悪くする典型的なパワハラであり、人道的に許されるものではありません。

パワハラを受けた時の対処方法

職場でパワハラを受けた場合、何もせずに泣き寝入りするのは良策ではありません。
職場の悩みは声には出せないものですが、かといって不満や苦しみを胸の内に鬱積させるばかりでは精神衛生上よくありません。さらに、職場環境の改善にもつながりません。

パワハラに悩んでいる人は、まずその事実を証拠として残すことをおすすめします。

過度な叱責や暴言を録音し、恫喝的なメールや不当な業務命令などの文書も保存しましょう。パワハラを受けた状況を日記などで記録することもできます。

そのうえで、社内のコンプライアンス部門に訴えるか、全国の労働局や労働基準監督署にある総合労働相談コーナーに相談するのがよいです。

また、法テラスで弁護士の意見を求めることもできます。

日本司法支援センター 法テラス

まとめ

  • パワハラとは英語の「power harassment(パワーハラスメント)」の略語。職務上の地位などの優位な立場を背景にした過度に高圧的な行為のこと。
  • 仕事上の注意や叱責でも、業務の適正な範囲を超えた態度や、相手の人格を否定するような侮蔑的な言葉はパワハラとなる。
  • パワハラを受けたらその事実を証拠として残し、会社のコンプライアンス部門か総合労働相談コーナーなどに相談する。

パワハラを受けていると精神的に追い込まれてしまいます。現在、悩まれている方は転職を検討してみてもよいかもしれません。