インドにおける「カースト制度」とは?階級や日本の例などを解説

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この記事では、「カースト制度」の意味や由来、階級、歴史や背景などについて考察します。

中国を抜き世界一の人口を抱える「インド」。今やそのIT技術の高さで世界的にも存在感を高めていますが、反面、「カースト制度」と呼ばれる差別的な制度が依然として影響を及ぼしているのも事実です。

「カースト制度」と同じような制度はかつて日本にも存在していました。この記事を通して、「カースト制度」の意味や由来などを理解して、社会人としての知識の幅を広げてください。

「カースト制度」とは


小説や漫画などでも登場する「カースト制度」という言葉。学校の授業でも習ったことがある世代の方もいるはずです。インドの代名詞のようにも扱われているこの「カースト制度」とは、具体的にどのようなものでしょうか?

「カースト制度」とはインドの身分制度

カースト制度は、インドのヒンディー教の教義に基づいて古くから社会に根づいている身分制度のことです。カースト制度というと4つの階級が有名ですが、実はカーストには「ヴァルナ」と「ジャーティー」の2つの概念があります。

ヴァルナは、私たちになじみのある身分制度です。この4つの身分のことを「ヴァルナ」と呼びます。「ジャーティー」は、血縁や職業などで結束された共同体のことです。インド全体で、2,000~3,000のジャーティーがあると言われています。

婚姻は、同じジャーティー内でおこなっていました。つまり、多くのインド人にとっては、このジャーティーが生活の基準になり、インド社会を維持してきたのです。カースト制度を知る上で、この「ヴァルナ」と「ジャーティー」の2つの概念が重要になります。

「カースト制度」の由来

カースト制度は、紀元前1500年頃にインドに侵入してきたアーリア人が編纂したバラモン教の経典「リグ・ベーダ」から由来しています。しかし、当時は「カースト」とは呼ばれていません。

「カースト」と呼ばれるようになったのは、16世紀末にインドを訪れたポルトガル人が名付けたと言われています。インドの特異な身分制度を見て、「家柄・血統」を意味する「カスタ(casta)」と表現したことが、「カースト制度」の語源になったようです。

「カースト制度」の階級

千載一遇
カースト制度には、「バラモン」「クシャトリア」「ヴァイシャ」「シュードラ」の4つの階級があります。

バラモン

カースト制度の最上位にある「バラモン」は、宗教的な権威のある「司祭」や「僧侶」などが伝統的に引き継いでいました。現代では、政治家や官僚、大学の研究者や企業の幹部などの職についている人が大多数です。

クシャトリア

2番目に位置するのが「クシャトリア」で、王族や武士などの世俗的な支配階級。行政や司法を担っていました。但し、全ての王族や武士がクシャトリアではなかったようです。詳細は明確ではありませんが、限定的な身分であったと言われています。

バイシャ

「バイシャ」は、いわゆる庶民層で、主に農耕,牧畜,商業に従事する人たちのことです。アーリヤ人の氏族や部族を意味した「ビシュviś」に由来します。身分は高くありませんが、経済力が高く、中産階級の尊称にもなっています。

シュードラ

アーリア人に征服された先住民やアーリア人以外の人々が属する階級です。上位のカーストに奉仕する隷属的な労働に従事しています。現代では、農業や製造業などの一般労働者たちが対象になります。

また、カースト制度の外側におかれた「ダリット」と呼ばれる差別的な階級があります。ダリットは、「壊されし人びと」の意味で「不可触民」としてカーストの人々から隔絶されていました。動物の加工や汚物処理などの人が嫌がる仕事に従事しています。

「カースト制度」の歴史や背景


「カースト制度」は、アーリア人が編纂したバラモン教の経典「リグ・ベーダ」が由来ですが、インドのヒンディー教には経典と呼ばれるものはありません。

インドのヒンディー教の前身がバラモン教です。「リグ・ベーダ」はインド最古の文献であり、ヒンディー教の構築に大きな影響を与えています。

リグ・ベーダにおけるヴァルナ

リグ・ベーダの「プルシャ賛歌」では、「彼の口はバラモンなりき。両腕はラージャニヤ(クシャトリヤ)となされたり。彼の両腿はすなわちヴァイシャなり。両足よりシュードラ生じたり」という記述があります。

彼(プルシャ)とは、万物の元となる巨人のことです。このプルシャを神々が祭祀のためにを切り分けたところ、口がバラモン、両腕がクシャトリア、両腿がヴァイシャ、両足がシュードラになったと伝えられています。

仏教の台頭

紀元前6世紀頃になるとカースト制度の最上位であるバラモンの権威が薄れ、王族であるクシャトリアが力を増してきました。そんな中、自由な発想が生まれ、紀元前5世紀頃にバラモン教にかわる新しい宗教として仏教が誕生したのです。

仏教の創始者であるガウタマ・シッダールタ(ブッダ)は、バラモン教の教義を認めず、カースト制度も否定。ブッダの教えはインド全土に広がり、4世紀にはヒンディー教と競う存在になりました。

イスラム教の普及

11世紀初め、アフガニスタンのトルコ系王朝であるカズナ王朝が、頻繁にインドに侵入してきました。その後、カズナ王朝を滅ぼしたゴール朝が、1175年に北インドに侵攻し、1202年には北インドまで達しました。

この進行により仏教はインドからほぼ消滅したのです。15世紀末には、イスラム教とヒンディー教の2つの宗教が併存することになりました。イスラム教の教義でもカースト制度は否定されえていますが、インド社会ではそのまま存在し続けました。

イギリス統治下時代のカースト制度

19世紀中ごろになると、インドはイギリスの統治下になり、1877年ヴィクトリア女王を皇帝とする「インド帝国」が誕生しました。

このとき、「インド国内の相対立する諸グループのあいだを調停する公平なアンパイア」として、カースト制度の役割を重要視しました。この政策により、インドのカースト制度は、より強力になったと言われています。

インド憲法の成立

1857年から始まった独立運動を経て、1947年、インドがイギリスから独立すると、1950年にインド憲法が施行されました。この憲法の中で、「カーストに基づく差別の禁止」と「不可触民制の廃止」が明文化されました。

しかし、憲法ではカーストによる差別が禁止されているだけで、カースト制度自体が消滅するものではありません。現代においても、職業や結婚などにおいてカーストの習慣は色濃く残っています。

インドのIT技術が急速に発展した背景には、カーストの職業に含まれないIT技術者を希望する若者が増加した結果とも言われています。このように、カースト制度は、依然としてインドの大きな課題になっているのです。

日本における「カースト制度」

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日本のカースト制度と言えば、真っ先に思い浮かべるのが江戸時代の「士農工商」でしょう。職業に基づく身分制度で、「四民(しみん)」とも呼ばれます。また、武士に準ずる身分として、公家・僧侶・神官などがありました。

「士農工商(四民)」は、古代中国の単語で、「あらゆる職業の人々」と言う意味で使われていました。士農工商が身分を意味する言葉になったのは、豊臣秀吉の「太閤検地」「刀狩り」において武士と農民を明確にするため「士」と「農」が区別されたようです。

これまで私たちは、江戸時代に士農工商という身分制度が存在したと教わってきました。しかし、1990年代になると歴史的な研究が進み、「士農工商という身分制度はなかった」ことが明確になり、2000年代には、教科書から士農工商の記述がなくなりました。

江戸時代に、身分的な差別がなかったわけではありません。武士は特権階級で、農民や商品余はあきらかに区別されていました。しかし、農民が商人になることや、徒士(とし)と呼ばれる下層武士や足軽になることはできたのです。

このように、日本ではカースト制度のような明らかな身分制度はありません。但し、カースト制度の外側におかれた「ダリット」と同じような差別的な身分が存在していました。
それが、「穢多(えた)・非人(ひにん)」です。

穢多(えた)は、中世以来の隷属民や激しい社会変動で没落した人びとのことで、江戸幕府維持のために住居や職業を固定されていました。掃除や葬送、土木工事、斃牛馬(へいぎゅうば)の処理や皮革業など、「ケガレ」を清める仕事をおこなっていました。

非人は乞食・犯罪・心中未遂などの転落者。物乞いや遊芸などで生活していた人々です。明治4年に8月に日本政府は、「えた・ひにん等の称号を廃し、今後、身分・職業とも平民同様たるべきこと」としました。

しかし、部落差別問題など、今もなおその痕跡は残っています。

「カースト制度」と「ヒエラルキー」の違い


カースト制度と似たような表現が「ヒエラルキー」です。ヒエラルキーをカースト制度と混同して使っている人もいるようですが、カースト制度とは明らかに違いがあるので、正しい意味を理解することが大切です。

ヒエラルキーは流動的な階級構造

ヒエラルキーは、「構造・階層」を意味する言葉です。古代ギリシャ語の「ヒエラルキア」が語源で、「司祭長による支配」を意味していました。つまり、宗教的な権力者を頂点としたピラミッド型の構造が、ヒエラルキーなのです。

現代では宗教的な意味はなくなり、一般的には企業などのピラミッド型の階級構造の意味で使われます。例えば、企業における「社長」「専務」「常務」「部長」「課長」「係長」「一般社員」のようなピラミッド構造のことです。

構造的には、カースト制度と同じですが、大きな違いは階級が流動的なことです。つまり、一般社員でも能力次第では社長にまで登り詰めることも夢ではありません。また、カースト制度のような身分で差別されることもないのです。

まとめ この記事のおさらい

  • カースト制度とはインドの身分制度で、「ヴァルナ」と「ジャーティー」の2つの概念がある。
  • カースト制度は、バラモン教の経典「リグ・ベーダ」が由来。
  • カースト制度には、「バラモン」「クシャトリア」「ヴァイシャ」「シュードラ」の4つの階級があります。
  • 1950に施行されたインド憲法により、「カーストに基づく差別の禁止」と「不可触民制の廃止」が明文化。しかし、職業や結婚などにおいてカーストの習慣は色濃く残っています。
  • 日本の士農工商は、身分制度ではなくカースト制度とは異なる。
  • ヒエラルキーは身分の移動がある流動的な階級構造。