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ここでは「あながち」という言葉について解説します。「あながち」は比較的なじみの深い言葉に思えますが、「ガチで」や「~しがちな」などの言葉と勘違いしたり誤用したりするケースも少なくありません。
そこで、本項では「あながち」の正しい意味と使い方、語源や類義語、英語表現などについて多角的に説明していきます。どうぞ最後までお読みください。
「あながち」の意味と使い方
「あながち」は「あながち~ではない」のように打ち消しの語を伴うことで「必ずしも~ではない」「一概には言えない」という懐疑的な意味をあらわす言葉です。現代語では「あながち」だけを単独で使うことはありません。
漢字表現は「強ち」
「あながち」は漢字で「強ち」と書きます。「強」という字は訓読みで「つよい」「しいる」などと読みますが、「あながち」は常用漢字ではありませんので、公文書や新聞記事などでは、ひらがなで「あながち」と表記するのが基本です。
「あながち」の語源
「あながち」の語源は定かではありませんが、もとの意味は「物事を自分勝手に押し進めること」。そこで「あながち」の成り立ちは「おのれ(己)」の意味の「あな」と「勝ち」を合わせた言葉ではないかと考えられています。
平安時代には「あながちなり」という形容動詞で「強引な」「身勝手な」「一途だ」「はなはだしい」「ひどい」などの意味をあらわしました。有名な古典文学にも終止形の「あながちなり」や連用形の「あながちに」など多くの用例が見られます。
その後、「あながち」の下に「~ない」「できない」などの否定や打ち消しの形容詞(または助動詞)を付加して、「必ずしも~ではない」「一概に~とはいえない」という意味をあらわす現在の副詞用法に変遷したものとされています。
「あながち」と「必ずしも」の違い
「あながち」と意味が酷似する言葉に「必ずしも」があります。両者とも下に「~ない」などの打ち消しや否定の言葉を付加することで「一概に~とはいえない」という意味をあらわします。使い方も「あながちと」同じで、明確な違いはありません。
小学館の「大辞泉」によると「あながち~ない」は「断定しきれない」という気持ちをあらわし、「必ずしも~ない」は「必ず~というわけではない」「必ず~とは限らない」という気持ちをあらわす、とされています。
このことから「必ずしも~ない」という言葉は「ある推論や結論を論理的に否定できる可能性がある」という意味に解釈できます。たとえば「必ずしも良いとはいえない」は「論理的に『悪い』と判断できそうな部分もある」という意味になります。
一方、「あながち」は「強ち」と書くことからもわかるように「強引な」「身勝手な」ことを意味する言葉です。したがって「あながち良いとはいえない」といえば、「良い」という判断や結論に固執しないほうがいい、という意味になります。
つまり「あながち~ない」があらわすのは「良いかどうか」の判断そのものではなく、「良い」という判断や結論に固執する態度に疑問を呈している、といえます。
もっとも芥川龍之介をはじめ近代の文豪は「あながち」と「必ずしも」を作中ではっきりと使い分けてはいるわけではありません。「あながち」は「必ずしも」より主観的で婉曲的なニュアンスがあるとしても、文法上の明確な違いはありません。
「あながち」と「必ずしも」の使い分けに悩んだときは、「あながち」は「そう言い切るのはまずい気がする」という主観的な判断で、「必ずしも」は「論理的に考えてそうとは言い切れない」という客観的な判断を示すと考えましょう。
「あながち」のビジネス上での使い方
すでに述べたように「あながち」は「あながち~ではない」のように打ち消しや否定の言葉を加えるのが基本。意味は「そうと断定することはできない」「絶対にそうとは言い切れない」という疑念や否定の気持ちをあらわします。
たとえば「あながち間違いではない」といえば「間違いとは言い切れない」という意味になります。「必ずしも」のように論理的ではなく、「安易に間違いだと断定すべきではないと思う」という主観的で婉曲的なニュアンスがあります。
また「あながち」は「必ずしも」とちがって発音が母音ではじまるため、会話の中でも柔和で婉曲的なニュアンスが伝わります。そのためビジネスシーンでも比較的よく使われる表現となっています。
たとえば上司に意見を求められた場合、「あながち間違いではないと思います」「あながち間違いとは言えないかと存じます」「あながち間違いとは言い切れないのではないでしょうか」などの言い方で婉曲的に反対意見を表明することができます。
「あながち」の類義語と例文
「あながち」と意味が同じ類義語としては、上述の「必ずしも」以外にも「一概(いちがい)に」「まんざら」などがあげられます。いずれも下に否定や打ち消しの言葉をつけることで「あながち」と同じ意味をあらわすことができます。
「一概」の「概」は「斗掻(とかき)」のこと。「斗掻」は穀物の量などを枡(ます)に入れて量るときに過不足がないよう平らにならす道具です。そこから「すべて同一に扱うこと」「すべてをひっくるめること」などを意味する字として成立しました。
「一概」は「自分の意見を無理強いすること」「強情なこと」を意味します。つまり「あながちなり」の同義語です。それを「ない」という否定語で打ち消すことで「必ずしも~とはいえない」という意味になることも「あながち」と同じです。
一方、「まんざら」は漢字で「満更」と書きます。これは後世の当て字で語源は不明。もともと「まんざら」は「全く」「ひたすら」を意味する言葉でしたが、現代では下に打消しの言葉を加えることで婉曲的な否定や肯定をあらわします。
「一概に」の例文
「まんざら」の例文
「あながち」の英語表現
「あながち」という言葉の英語表現としては「not always」「not exactly」「not necessarily」「not quite」などをあげることができます。
いずれも「必ずしも~ではない」という部分否定のフレーズとして「あながち」と同じ意味を表現することができます。
たとえば以下の例文はいずれも「私(の判断)はあながち間違いとは言えない」という意味を表現しています。
I am not exactly wrong.
I am not quite wrong.