解雇規制のメリットとデメリット 解雇規制緩和の必要性について解説

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日本では、使用者が労働者を自由に解雇することを制限する法的規則である「解雇規制」があります。

この記事では、解雇規制とはどのようなものかや、解雇規制のメリット、デメリットを解説します。また、数年前から政府の検討事項にもなっている「解雇規制緩和」についても触れていきます。

解雇規制とはそもそもなにか

解雇の種類

ひと口に解雇と言いますが、解雇は理由や目的により、大きく分けて3種類があります。解雇規制の説明をする前に、この3つの解雇の種類について説明をします。

(1)懲戒解雇
懲戒解雇とは、懲戒(ちょうかい:不正・不当な行為に対して、戒めの制裁を加えること)という言葉が表す通り、企業の規律・秩序に違反したり利益を著しく損なう行為をしたりした労働者に対し、使用者が制裁として行う解雇のことです。規律違反を犯した場合、停職、減給などの処分が下されますが、その懲戒処分の中で一番重いものにあたるのが懲戒解雇となります。

しかし、懲戒解雇とはいえどのような場合でも解雇が認められる訳ではありません。客観的かつ社会的にみて相当の理由があるかどうかが判断の基準となり、懲戒解雇が認められる主な事由には次のようにことが考えられます。

  • 法律に違反する行為
  • 正当な理由のない2週間を超える無断欠勤
  • 機密情報の漏洩など企業が重大な損害を被る行為
  • 業務上必要な資格や経験を偽るなどの経歴詐称

(2)整理解雇
整理解雇とは、企業側の都合で労働者を解雇するもので、いわゆるリストラと呼ばれているものです。整理解雇は、経営不振で解雇を行わなければ企業の存続が危ぶまれる場合に取られる手段で、次の要件を満たしているがどうかが整理解雇が認められるかどうかの判断基準になります。

人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

(3)普通解雇
普通解雇は、懲戒解雇、整理解雇以外の解雇です。労働基準法では、解雇の事由を就業規則等に記載しておかなければならないとされていて、そのの解雇事由に照らし合わせ、解雇するにあたる正当な事由があるかどうかを判断しなくてはなりません。どのようなケースが解雇事由にあたるのかを一概に言うことは難しいですが、一般的には次のような自由が考えられます。

心身の疾患による就労不可能
配置転換や休職制度の活用など、解雇を回避する方策を講じたにもかかわらず、長期にわたり就労が不可能になった場合
試用期間後の解雇
労働者の勤務態度不良や業務への適格性欠如などが理由の試用期間後の解雇
成績不振・ノルマ未達成
企業が能力向上の努力をしたにもかかわらず、業務遂行に支障をきたすほどの場合
契約書で明示されたスキルを有していない
業務上必要なスキルを有していることを前提に契約したにも関わらず、そのスキルを有していない場合

解雇規制とは

解雇は、使用者がいつでも自由に行えるというものではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者を辞めさせることはできないことが、労働契約法第十六条にうたわれています。使用者が強引に解雇を行っても、必要な要件を満たさなければ解雇無効となります。

労働契約法 第十六条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

解雇規制のメリットとデメリット

解雇規制のメリット

終身雇用が前提なので一生安泰
労働者側からみれば、解雇規制はメリットになることもあります。労働者が解雇をしにくいということは、基本的な考え方として終身雇用が約束されているということです。安定した大企業に就職すれば、よっぽどのことがない限り解雇されることなく、定年まで安泰という考え方もできます。終身雇用を望む人には解雇規制は悪くない制度かもしれません。
教育投資を積極的に行える
企業側からみれば、労働者が長く務める前提であれば、教育にお金や時間をかけても損をすることはありません。

雇用規制のデメリット

給料が上がりにくい、転職がしにくい
終身雇用が前提の場合、よっぽどの事由がない限り減給することが難しくなります。企業側は減給ができない分、一気に昇給させることをためらう傾向があり、給料が伸び悩む原因にもなります。
また、企業に労働者が固定してしまうため、採用枠も少なくなります。そのため転職をしたくても希望する企業で採用枠がなかったり、転職先を見つけるのが困難で転職をあきらめてしまうケースが多くなってしまうことが考えられます。
非正規社員の増加を生む
正社員で雇用をすると解雇が大変難しいため、リスクを避けるために非正規社員でまかなうという状況を生みます。このように解雇規制は非正規社員の増大につながり、正社員、非正規社員の二極化という歪んだ労働市場を作り出していると考えられています。
新たな人材を採用しにくい
企業側からみれば、自社の業務に向いていない社員も雇い続けなければならないわけですから、新しい社員を招き入れるポジションを作ることが難しくなります。

解雇規制緩和の必要性

解雇規制緩和はなぜ必要か

解雇規制にはメリットもデメリットもありますが、近年は解雇規制の緩和が必要だという声が企業経営者を中心に大きくなり、政府でも検討事項にあがっています。しかし、現在のところ規制緩和には至っていません。

解雇規制の必要性が叫ばれる一番の理由は、雇用の流動性にあります。解雇規制により労働者を守ることに重点を置いてきた日本では、雇用の流動性が下がり、結果として労働者、そして企業の成長を妨げる要因にもなってしまっています。

解雇規制緩和のメリット

解雇規制緩和のメリットとしては次のようなことが考えられます。

転職がしやすくなる
企業が労働者を解雇しやすくなれば正社員をかかえることによるリスクが減るので、採用を躊躇することが少なくなり採用されるチャンスが広がります。
また、正社員を雇用するリスクを避けるために非正規社員で賄っていたところもその必要性がなくなり、正社員、非正規社員という区別がだんだんと薄くなってくることも考えられます。
自分の適性に合った仕事に就きやすくなる
入社したものの自分には合わないと感じても、なかなか転職に踏み切れないのが現状ですが、転職市場が活発になれば自分を活かせる職場を探しやすくなります。
企業の待遇がよくなる
転職がしやすい環境になるということは、優秀な人はどんどん条件の良いところに転職することになるでしょう。企業はよい人材に残ってもらうための施策を考えざるを得なくなります。そうなれば、いわゆるブラック企業はなくなり、労働環境や待遇が労働者にとってよいものとなっていくでしょう。

解雇規制についてのまとめ

  • 解雇規制とは、使用者が労働者を自由に解雇することを制限する法的規則です。
  • 解雇規制のメリットとしては、終身雇用が前提のため大企業にいったん就職すれば一生安泰なこと、企業側は労働者をじっくり育てることができるため、教育に時間やお金をかけやすいことなどがあげられます。
  • 解雇規制のデメリットとしては、給料が上がりにくく転職がしにくいこと、解雇しにくい正社員の採用をひかえて非正規社員で補完するため非正規社員が増えること、企業が自社にマッチした人材をなかなか採用できないことなどがあげられます。
  • 雇用の流動性を重要視する動きから、解雇規制緩和の必要性が説かれています。