「言う」の尊敬語は「おっしゃる」、謙譲語は「申す」、理解はしていても使い方に迷いがちな敬語です。ここでは目上の人や敬意を払うべき尊敬語のおっしゃるの使い方と謙譲語の「申す」との使い分けを例文とともにお伝えします。

「おっしゃる」の使い方

「おっしゃる」に関連した、誤りがちな使い方と注意点について説明します。

「おっしゃるとおり」は目上の人に使える?

目上の方に対して「おっしゃるとおりです」という言い方は、尊敬語を用いた正しい表現です。ただし、シチュエーションによっては注意が必要です。

「おっしゃるとおり」というのは、他人の指摘等をその通りであると認める表現です。ビジネスの場では、目上の人から叱責されたり、詰問されたりするシーンも往々に想定されます。そのような時「おっしゃるとおりです」の一言だけでは、コミュニケーションは不十分かもしれません。

指摘に対しては、丁寧な、気持を伝える言い回しや、反省の表現を添えるようにしましょう。より誠意が相手に伝わります。

【例文】
「会議室の吸い殻がそのままだった。次の人に失礼じゃないか。会議後は片づけるよう言ったはずだよ」

△「おっしゃる通りです。以後、注意します。」
(素っ気ない印象を与える可能性があります)

〇「はい、本当におっしゃるとおりです。以後、注意します。」
(共感・承諾の意図が伝わります)

〇「部長のおっしゃるとおりです。以後、注意します。」
(主語を加えるとより丁寧になります)

〇「おっしゃるとおりです。申し訳ございませんでした。以後、注意します。」
(反省の意図が伝わります)

「おっしゃられる」は間違い

「おっしゃられる」は、より丁寧にしたいという気持でつい使いがちな表現ですが、間違いです。尊敬語の「おっしゃる」に、さらに尊敬の助動詞「れる」をつけた二重敬語、つまり2つの敬語が重なった表現になります。

二重敬語は、慇懃無礼(いんぎんぶれい:丁寧すぎて逆に失礼なこと)と、とらわれます。「おっしゃられる」ではなくシンプルに「おっしゃる」と言いましょう。

「おっしゃりました」も間違い

「おっしゃる」に「ます」「ました」をつける時、「おっしゃります/おっしゃりました」は誤りで、「おっしゃいます/おっしゃいました」が正しい言い方、発音です。

文法的には「5段活用」の動詞は「ます」「ました」をつける時、通常「る」が「り」になります。ただし、例外として「おっしゃる」のようなケースでは、さらに「り」が「い」に変化します。この「り」が「い」に変化することを「イ音便」と言います。
「おっしゃる」のほか「いらっしゃる」「くださる」「なさる」も「イ音便」となる動詞です。

「いらっしゃる」→「いらっしゃいました」
「くださる」→「くださいました」
「なさる」→「なさいました」

「仰る」と「おっしゃる」どっちで表記するべきか

「おっしゃる」と「仰る」は、どちらも辞書に載っている正しい表記です。ただし、一般には、新聞記事などを含めてひらがな表記が多く使われます。

漢字の多い文章は堅苦しい印象を与えることがあるため、通常は、一般的なひらがな表記「おっしゃる」がおすすめです。エディタを使う場合、漢字変換機能により、勝手に変換される場合もあるので注意が必要です。

謙譲語の「申す」について

「申す」は「言う」の謙譲語です。謙譲語とは自分の事をへりくだって言う場合に使われます。そのため、目上の人の行動を「申す」と表現するのは間違いです。

時代小説などではよく「何と申される」のような台詞がでてきます。江戸時代までは「申す」は丁寧語と解釈され、目上の人に対しても「申される」を使っていました。時代とともに用法が変化し、現在は「部長が申されたのは」という使い方は、謙譲語「申す」と尊敬語「れる」の混用で誤った表現とされています。

目上の人の行動に対しては、「申される」ではなく「おっしゃる」といい、自分や身内に準ずる人が敬意を表すべき相手に対しては、「部下の佐藤が申しておりました」のように謙譲語の「申す」「申し上げる」を使いましょう。

類義語「仰せの通り」の意味や使い方

「おっしゃるとおり」と類似の言い方で「仰せの通り」という表現があります。
「仰せ」には、(1)目上の人からの命令 (2)相手の言葉(尊敬した言い方)という2つの意味があります。「仰せの通り」は、(2)の意味で「あなたの言葉どおりです」の敬語表現です。「おっしゃるとおり」の方が一般的ですが、「仰せのとおり」も同じ意味で使うことができます。

その他の「言う」の敬語「お伝えする」の使い方

「言う」の敬語「お伝えする」も誤りやすい表現です。

よくみられる誤りは、電話に出た人が丁寧に言ったつもりで「〇〇(社内の人)にお伝えしておきます」というものです。これは、電話の相手ではなく、社内の〇〇さんに対して敬意を示すことになり、間違いです。正しい言い方は、「〇〇(社内の人)に申し伝えます」です。

ただし、電話の相手が〇〇さんの奥さんや家族だった場合には、〇〇さんは相手の身内になるので、敬意を示すべきです。この場合、「〇〇(相手の身内)さんにお伝えしておきます」は正しい言い方です。

「伝える」対象が尊敬すべき人であれば「お伝えする」と表現し、謙譲すべき人であれば、「申し伝えます」と表現する、と覚えておくとよいでしょう。

例文集

目上の人の行動

「部長のおっしゃることに賛成です。」
「お客様がこのようにおっしゃいました。

自分または身内の行動

「弊社の部長がよろしくと申しておりました。
「ご配慮いただき、お礼を申し上げます。

指摘に対して

「はい、部長のおっしゃるとおりです。申し訳ございません。」
「お客様の仰せのとおりでございます。」

電話

(相手が取引先等の人の場合)「〇〇に、折り返しご連絡するよう申し伝えます。
(相手が○〇さんのご家族の場合)「〇〇さんに、折り返しご連絡するようお伝えします。

まとめ

「おっしゃる」「申す」、この2つのみならず、尊敬語と謙譲語はよく間違えてしまいがちです。正しい使い方を確認して、ビジネスコミュニケーションを円滑に進めましょう。