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ドイツの哲学者ニーチェが「現代は虚無主義到来の時代である」といったのは百年以上も前のことです。
ですがその後も科学技術と経済の発展が人類に繁栄をもたらす一方で、多くの人たちが虚無感に苦しむ状況は、21世紀になっても改善されるどころか、ますます深刻化しています。
ここではそんな現代の虚無感、虚無感の原因、や虚無感に苦しむ場合の対処法について解説していきます。
虚無感とは何か?
「虚無感」は「きょむかん」と読みます。前述のニーチェの虚無主義は、人が歴史の転換点に直面して既存の価値観を喪失したとき「この世に存在するものに意味や価値はない」という否定的な思想や風潮が蔓延することをいいました。
一方、現代において問題視される「虚無感」とは、人が生きる意味を見失ったときに陥りやすい殺伐とした虚しさのことをいいます。「この世に存在価値はない」という虚無主義的な感覚自体は、誰でも胸の奥に抱えています。
ですが、その虚無主義が内向きになり、「むしろ存在価値がないのは私自身なのでは?」という自己嫌悪的な無価値感にとらわれてしまう事が、現代の虚無感の要因と見ることもできます。
虚無感を感じる原因
人が虚無感を感じやすい原因としては、以下のようなものがあげられます。
虚無感の例:やりがいを見失った
人にとって「やりがい」は心と体の活力源であり、希望に満ちた未来へと導く灯台のようなものです。それだけに、やりがいをひとたび見失ってしまうと、目の前が急に真っ暗になったような虚無感に苛まれてしまいます。
たとえば、天職だと思っていた仕事を辞めざるを得なくなったり、自信を持って取り組んだプロジェクトが失敗に終わったりすることで、仕事への情熱やモチベーションを喪失してしまう場合がそれに当たります。
虚無感の例:自分の存在意義が分からない
人は家庭や社会で生活する中で、いくつもの集団や組織に所属して、それぞれに違う役割を担っています。しかし日本の集団主義社会では、個人の自発性や主体性はなかなか評価されません。
家族間の意思疎通にしても、決してよいとはいえないのが日本人の悪いところです。仕事でどんなに努力しても報われず、それでも家族のために毎日一生懸命頑張っているのに、家に帰っても感謝されず尊敬もされず、ねぎらいもされない。
そうなると仕事のモチベーションだけでなく、家族への愛情さえ失ってしまいます。その結果、自分の存在意義が分からなくなり、重い虚無感に苛まれるようになります。
虚無感の例:生きがいが見つからない・見失った
人にはそれぞれ生きがいがあります。趣味や旅行やスポーツなどの好きなことや得意なことや、あるいはボランティア活動のように誰かに必要とされることなどです。
生きがいが見つからなかったり、あっても見失ったりすると、生きるために必要な心の支えや楽しみが得られません。
虚無感の例:何かを失った
人は誰かのために尽くすことで、自分自身の存在価値を確かめようとする傾向があります。しかし人を取り巻く状況は不変ではありません。
勤めを辞めたり、離婚したり、子供が独立したりして、それまで仕事や家族に費やしていた時間や労力が不要になると、献身や自己犠牲による達成感が得られなくなり、深い虚無感に襲われることがあります。
長年飼っていたペットに死なれて気分がふさぎ込む「ペットロス症候群」も同様のケースのひとつといえます。
虚無感の例:夢と現実との大きなギャップ
夢には無限大の可能性があります。夢や空想の中でなら、あこがれのアイドルと愛し合うことも、自分自身がアイドルになることもできます。
オリンピックで金メダルを取ったり、世界的な大芸術家になったり、大企業のトップになることもできます。問題はそういったロマンチックな夢や空想が、現実とは大きくかけ離れていることです。
現実的な苦労も努力もせず、ただ夢想ばかりにひたっていると、いつかは夢と現実の巨大なギャップに直面せざるを得なくなります。
夢の世界で空を飛べても、現実の自分は精神的に未成熟な落伍者に過ぎないとしたら、みじめな現実に虚無感を抑えきれ無くなってしまいます。
虚無感と空虚感の違い
虚無感も空虚感も「何もなく、虚しい気持ち」という意味では同じです。ですが、虚無感には、自分を含めた全てのものに価値や意味がないような気がして虚しい、という意味があります。
一方の空虚感は、心にぽっかり穴があいたように、気分が満たされないという意味があります。虚無感が明るい感情を失った真っ暗な状態だとすれば、空虚感は心の中に何もない空白の感情といえるでしょう。
虚無感は精神障害の可能性もある
自分には存在価値が無いという虚無感は、「自分はこの世に存在してはいけないんだ」という罪悪感に陥りやすく、それが高じると自殺願望になることもあります。
そのような場合は鬱かそれに近い症状の可能性があります。早めに専門医の診察を受けましょう。
また虚無感から自暴自棄になったり、感情の起伏が激しくなったりする場合は、境界性パーソナリティ障害や幼少時のトラウマに起因する精神障害の可能性もあります。
虚無感を感じた時の対処方法
人生に行き詰まって虚無感に襲われるのは誰にでもあることです。ですが何もやる気にならない状態が長引くと、日常生活に支障をきたすようになります。さらに悪化すれば精神障害の原因にもなりかねません。
虚無感の原因が具体的にわかれば現実的な対処もできます、ですが多くの場合、原因は不安やストレスによる精神的なダメージの蓄積にあるため、無理に自分を奮い立たせようとするのはかえって逆効果になることもあります。
前述のニーチェは、「自分を含めたすべての存在が無価値だ」という虚無的な感情をむしろ前向きにとらえて、無価値だからこそ一瞬一瞬を懸命に生きることで自らの価値を創造することができると説いています。
虚無感に襲われたときは無理をしたり焦ったりせず、気持ちを完全に切り替えて自堕落なほど休息をとったり、気楽に旅行したり、今までやったことがない稽古事や料理などに思い切って挑戦してみるなど、新鮮な感覚を得られるような行動を起こせば、感情もおのずと変化してきます。
大切なことは、虚無感を感じたら、暗い考えにとらわれず、気持ちを切り替えることが大切です。
虚無感についてのまとめ
- 虚無感とは、生きる意味や価値を見失い、何もかもが虚しく感じられることをいいます。
- 虚無感の原因は心理的なストレスの蓄積にあるが、精神疾患の可能性もあります。
- 虚無感を乗り越えるには、気持ちを上手に切り替えることが重要です。