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日本語の中には、尊敬語や謙譲語が通常の成り立ちとは異なり、全く別の言葉に変化するものがあります。「知る」もそのうちのひとつです。
ビジネスシーンでは相手の情報を知っている時や、反対に相手が何かを知っている状況がよくあります。「知る」の敬語表現は比較的よく使う言葉のうちのひとつなので、間違えずに覚えておきたいものです。「知る」の敬語表現、とりわけ謙譲語についてチェックしましょう。
知るの謙譲語は「ご存じ」「存じる」
例えば「切る」という言葉がありますが、切る動作を相手がする場合、すなわち尊敬語として使う場合は、接頭語の「お」を付けて「お切りになる」と言います。自分が切る時、すなわち謙譲語として使う場合は、同じく接頭語の「お」を付けて「お切りする」と言います。動詞はこのように「お~になる」「お~する」という形の敬語表現が多いものです。
この法則に当てはめると、「知る」は尊敬語が「お知りになる」で、謙譲語は「お知りする」になります。しかし耳で聞いた時の「お知り」の語感が「お尻」を連想させてしまうこともあり、あまり良い表現とは言えません。一般的に、「知る」の尊敬語は「ご存じ」、謙譲語は「存じる」が使われています。
このように独自の敬語表現を持つ言葉は日本語には沢山あります。特にビジネスシーンでは、上司や取引先など大切な相手のあることなので、使い間違えないように気を付けましょう。
「知る」の他に、独自の敬語表現のある言葉の例には、行く・来る・食べる・飲む・見る・する・着る などがあります。こういった言葉も同じく使い間違えないように注意しましょう。
存じ上げます・存じますとの違いは?
「存じ上げる」「存じます」というフレーズを聞いたことがある人も多いことでしょう。この2つは大変よく似ていますが、使い方が異なります。
専門的な話になりますが、日本語の謙譲語には謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱの2種類があります。謙譲語Ⅰは、相手を敬う気持ちを表すので、相手が自分より立場が上で、その人物の立場を立てるために使います。そのため、ビジネスシーンでは上司や社長、取引先などに対して使います。「存じる」の場合は、「存じ上げる」が謙譲語Ⅰに該当します。
謙譲語Ⅱは、丁重語とも言われ、相手の立場に関係なく、自分の行為に対して、それを丁寧に表現したい時に使います。「存じる」や「存じます」は謙譲語Ⅱに分類されます。
また、「存じ上げます」は基本的に知っている対象が人に限定されるのがポイントです。一方、「存じます」は知っている対象になるのが人や物、場所などの場合にも使えます。
「知る」ではなく、「(すでに)知っている」という状態を伝えたい時は、「存じております」を使用すると伝わりやすいでしょう。また、(人を)知らないと言う場合は、「存じ上げておりません」はビジネスではあまり使いません。特に会話文では使わない傾向があり、代わりにそういった場合は、「分かりかねます」を使うとスマートです。
「知る」の類義語・例文
「知る」の類義語もいくつかあります。類義語を知って、奥行きのある敬語表現が使えるようにしましょう。
心得る/よく知っている、よく分かっているという意味で使います。
・データの取り扱い方法は心得ているつもりです。
・点検機器の使い方は心得ておりますので、ご心配は無用です。
承知/事情などをよく知っているという意味で使います。
・お忙しいとは重々承知しておりますが、今週中にご回答いただけると助かります。
・谷を超えた向こうにその場所があることも承知していました
存じる・存じ上げます・存じますを使用した例文
・お客様のお問い合わせいただいた内容は存じております。
・内容量の変更については、小林から聞き、存じております。
・おおまかな場所は存じておりますので、ご迷惑をお掛けすることはないかと思います。
・問題の経緯について私は存じませんので、お答えすることはできかねます。
・恐れ入りますが、私の勉強不足のため、存じておりませんので教えていただけますか?
・事情を存じておらず、大変ご迷惑をお掛けしましたこと、心よりお詫び申し上げます。
・もう少し早くに存じておれば、このような事態にはならなかったのにと猛省しております。大変申し訳ございませんでした。
・雑誌でお顔とお名前は存じ上げております。
・お名前は存じておりましたので、お会いできて光栄です。
・お名前はかねてより存じ上げております。
まとめ
・「存じます」は、知っている対象が人・物・場所などの時に使用でき、丁寧に表現したい時に使う
・「存じ上げます」は、知っている対象が人の時に使用できる。相手の立場を立てたい時に使う。
・すでに知っている時は、「存じております」を使う
・「存じ上げません」は正解だが、ビジネスシーンではあまり使わず、「分かりかねます」を使う
・「存じる」の類語は「心得る」や「承知する」など
ビジネスシーンでは、会話の中よりもメールや文書でよく使われる「存じます」という言葉。「存じます」と「存じ上げます」は似ていても、使える対象が異なるなど細かなルールがあるので、きちんと整理して覚えましょう。