「漸く」とは?|読み方や意味、類語などを解説

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この記事では「漸く」という副詞について解説いたします。「漸く」は、読みさえわかれば意味は誰にでもわかる平易な言葉です。逆に言えば「漸く」は読みがむずかしく、「しばらく」や「ことごとく」と誤読する人も少なくありません。

そこでこの記事では「漸く」の読み方と意味、使い方をはじめ類義語と英語表現について解説するとともに、「しばらく」や「ことごとく」といった間違いやすい言葉も併せて解説していきます。

「漸く」の読み方・意味・使い方


「漸く」という漢字の正しい読み方は「ようやく」です。意味は「長いあいだ苦労や努力を重ねた末にとうとう目標を達成すること」「長いあいだ待ち望んでいたことがついにかなえられる様子」などをあらわします。

「漸く」の使い方としては、「全ての準備が漸く整った」「緊急事態宣言は10月1日をもって漸く解除される」のように、動詞などの用言を修飾する副詞としての用法が基本です。副詞ですので「漸く」に活用形はありません。

また和歌や俳句では「漸く」を古風に「やうやく」と書き、季節や天候の移ろいなどを表現する際に用います。古典文学では「やうやく」の音が変化した「やうやう(漸う)」という表現も見られます。

「やうやう」の用例として最も有名なのは「枕草子」の冒頭です。

枕草子の原文 
春はあけぼの やうやう白くなりゆく山際 少し明かりて 紫だちたる雲の細くたなびきたる

現代語訳
春は明け方がおすすめ。山の向こう側の空がだんだん白んで、ちょっと明るめになって、紫っぽく染まった雲がうっすら広がっているの。

「漸く」の語源

「漸く」という漢字は、「水の流れ」をあらわす「さんずい」に「斬」を組み合わせた会意文字。「斬」は「車」と「斧」の象形を合わせて「刃物で切ること」をあらわします。一節には、斧で木を削って車輪を作ったことが語源とされています。

この「斬」に、水の流れを示す「さんずい」を合わせた「漸」は「斧で大地を削って水の流れを変えること」をあらわす漢字です。そこから転じて「物事を少しずつ進行させること」を意味する文字に変化したものと考えられます。

また「ようやく」という読みは、「ややく」という古語の「や」と「や」の間に「う」が入ったものとする説や、「やくやく」がなまったとする説があります。

「漸く」とよく間違えられる漢字


「漸く」とよく間違えられる漢字に「暫く」と「悉く」があります。厳密に言えば「漸く」と間違えやすいのではなく、「漸く」が読めないときに前後の文章や、ふりがなの「く」から読みを誤って類推しやすい言葉が「暫く」と「悉く」です。

「暫く(しばらく)」

「暫」は「漸」と同様に「斬」を含むために混同しやすい漢字です。「暫」は「日を斬(切)る」という意味で、「短い時間」をあらわします。古語では「少しの間」「一時的な」など、現代語の「漸く」よりも短時間をあらわします。

「暫」を含む熟語は「一時的に定めておくこと」という意味の「暫定的」がよく用いられます。

「悉く(ことごとく)」

「悉く」の意味は「全てを」「残すところなく」。「悉」という漢字の成り立ちは「獣の爪」と「心臓」の象形を合わせた会意文字で、「獣が獲物の心臓をえぐりとる」という意味から「残らずとる」という意味の漢字になりました。

「悉」を含む熟語では、「細かいところまで知り尽くす」という意味の「知悉(ちしつ)」がよく用いられます。たとえば「部長はプロジェクトの全工程を知悉している」という表現は「全工程を知り尽くしている」という意味です。

ちなみに「漸く(ようやく)」には「稍く」という別字もあります。前述した古語の「ややく」も漢字では「稍く」と書きますが、「稍」は漢字検定一級の難読字で現代の日常生活ではほとんど使われません。

「漸く」のビジネス上での使い方

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「漸く」のビジネス上での使い方としては、苦労して目的を達成した場合や、プロジェクトなどの途中経過を表現するときに用いることが多く、いずれも「長時間苦労した」あるいは「苦労の甲斐あって」というニュアンスをにじませる言葉です。

また季節や時流の変遷をあらわす際にも、以下のような表現で用いることができます。

変遷をあらわす「漸く」の例文

新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が来月1日をもって漸く解除されることになった。

上の例でもおわかりのように変化や変遷をあらわす「漸く」には「やっと~した」「とうとう~してしまった」という感慨のニュアンスが含まれます。

以上のように「漸く」は単に「時間を要した」または「要する」というだけでなく、目的を達成するまでの苦労や、変化を待ちわびる気持ちも合わせて表現することで、ビジネスの事務的なコミュニケーションに人間的な感情を含める効果があります。

「漸く」の類義語と例文

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「漸く」と類似する意味の類義語としては、「いよいよ」「遂に(ついに)」「とうとう」「やっと」などの表現があります。

「いよいよ」は「待ち望んだ時が来る」という意味と、「だんだん高まる・ひどくなる」という変化をあらわす意味のふたつがあります。「いよいよ」は漢字で「愈々」か「弥々」と書きますが、難読字のため、一般の文書はひらがな表記が基本です。

「ついに」と「とうとう」の意味は「紆余曲折を経て」「最後まで」など。この場合「あることを苦労して成し遂げた」という喜ばしい意味のほか、「恐れていた事態が起きてしまった」という悪い意味でも使われます。

「やっと」は漢字で「漸と」と書きます。「漸く」と同じ漢字ですが、「漸と」は常用漢字外になるため一般には使われません。また「やっと」以外にも「やっとこさ」「やっとこさっとこ」などのバリエーションがあります。

また「漸く」にはない「やっと」だけの用法として、「お金や力などに余裕がない」「かろうじて」などの意味も表現できます。たとえば「家族3人養うのがやっとの生活」という用法は「漸く」にはありません。

「とうとう」の例文

待ちに待ったウインドウズ11がとうとうリリースされました。

「やっと」の例文

高値と品薄で買えなかったロレックスの腕時計をやっとの思いで手に入れました。

「漸く」の英語表現


「漸く」を英語にする場合は「at last」か「finally」が一般的です。「at last」は「長い苦しい試練がようやく終わった」というニュアンスがあり、「漸く」の訳語にふさわしい言葉です。

「finally」も同様に「時間をかけてやり遂げたこと」をあらわします。「at last」も「finally」も最後まで終えるか、ゴールや目的地に到達したことを意味する表現です。

途中経過を示す意味で「漸く折り返し地点まで到達した」という場合も「I reached halfway point finally.」「At last, I’m halfway there.」のように折り返し地点を中間目標と考えて「at last」や「finally」が使えます。

まとめ

「漸く」は「ようやく」と読み、意味は「長いあいだ努力を重ねた末にやっと目標を達成すること」をあらわします。
「漸く」は「暫く」や「悉く」と誤読されるケースが少なくありません。
「漸く」の類義語には「いよいよ」「遂に」「とうとう」「やっと」などがあります。
「漸く」の英語表現は「at last」か「finally」が一般的です。