アダム・スミスについて|「道徳感情論」「国富論」といった著書から、生い立ち、「見えざる手」などを解説

※本サイトはプロモーションを含んでいます。

この記事では「古典派経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスについて解説いたします。現代の資本主義社会は自由競争による経済活動、すなわち需要と供給の相互作用によって成立しています。その理論を初めて体系化したのがアダム・スミスです。

金融経済のいびつな独占化が進む現在、アダム・スミスの先見性が見直される気運が高まっています。そこで本項ではアダム・スミスの生い立ちや著書などをくわしく解説するとともに、現代にも通じる名言を紹介いたします。どうぞ最後までお読みください。

アダム・スミスとは

千載一遇
アダム・スミスは18世紀の経済学者で、資本主義の基礎となる自由主義経済理論を確立。現代では「古典派経済学の父」と呼ばれています。

アダム・スミスの生い立ちと生涯

アダム・スミスは1723年スコットランド生まれ。14歳でグラスゴー大学に進学して道徳哲学を専攻し、1748年からエディンバラ大学で教鞭をとり、その後グラスゴー大学に戻って論理学教授に就任。のちに道徳哲学教授に転任しました。

1759年に初の著書となる倫理学書の「道徳感情論」を出版。1764年にグラスゴー大学を退職し、スコットランド貴族のバクルー侯爵家に家庭教師として招かれました。その後は侯爵家とともにヨーロッパ各地を長期間旅行しながら知見と人脈を養いました。

1766年イギリスに帰国し、1776年に「国富論」を出版。1773年にロンドン王立学会のフェローに選出され、1787年にはグラスゴー大学の名誉学長に就任しました。晩年も精力的に執筆活動に取り組みましたが、1790年に67歳で病死しました。

スミスの死因となった病気は不明ですが、苦痛をともなう難病だったと伝えられています。死の数日前には痛みで著作を完成できなくなったことを悔やみ、自分の死後に未完成原稿をすべて焼却処分するようにと知人に遺言を託したと伝えられています。

アダム・スミスは「古典派経済学の父」と呼ばれる

アダム・スミスは1776 年出版の「国富論」によって近代経済学の理論を初めて体系化したといえるでしょう。スミスが活躍した18世紀後半のイギリスは産業革命の勃興期。生産技術が劇的に発展し社会に大きな変革をもたらした時代です。

またフランスをはじめとするヨーロッパ各国ではキリスト教中心の世界観が崩壊。事実を客観的に探求する気運が高まり「啓蒙の世紀」といわれました。そのような時期にヨーロッパ各地を旅行したスミスはフランスの啓蒙思想から大きな影響を受けました。

スミスは国民の富の本質は労働にあると分析。「物の価値は労働量で決まる」と考え、当時主流だった重商主義と絶対王政国家による独占的な経済政策を批判して自由主義経済の推進を主張しました。

ヨーロッパでは18世紀後半から学問の細分化が進み、経済学もそれまでは法学や哲学の一分野にすぎませんでしたが、「国富論」によって古典派の経済理論が初めて体系化され、その後のイギリス産業革命の発展を支える理論的な基板となったのです。

アダム・スミスは産業革命前期の経済学者にもかかわらず自由主義経済発展の必然性を洞察。経済学の基礎を築き、資本主義の基礎理論を体系化した功績から「古典派経済学の父」と呼ばれています。

アダム・スミスの「見えざる手」とは

鑑識
アダム・スミスは「国富論」の中で、資本主義の市場価格は需要と供給のバランスと商人同士の自由な価格競争によって自然に調和すると主張しました。ただし、それには国家が経済活動に介入せず、市場の自由競争を完全に保証することが条件になります。

「国富論」を批判する論者は、自由主義経済の統制とはすなわち経済社会の自己規制にすぎず、各自の利己心を放任すれば経済の攪乱や資本の独占を惹起する恐れがあり、それを阻止するには啓蒙君主による国家行為が不可欠であると主張しました。

スミスはそれに対し、「自由主義によって各自の利己心を放任したとしても、私益と公益、需要と供給は「見えざる手」に導かれておのずと一致する」と反論。経済活動の自然な自由競争の必要性を論じました。

「見えざる手」は国富論の趣旨ともいえる名言ですが、日本では翻訳時に原書にない「神の」という言葉を加えて「神の見えざる手」と意訳。それを戦後の経済学者が好んで使用したことから「神の見えざる手」という和訳が一般的になっています。

アダム・スミスの著書

件
アダム・スミスの主な著書としては1759年に出版された倫理学書の「道徳感情論」と、1776年に出版された経済学書の「国富論」が代表作として広く知られています。

1759年『道徳感情論』

1759年に出版された「道徳感情論(道徳情操論)」はアダム・スミスの処女作です。スミスは本書で倫理学と道徳哲学の見地から人間社会が形成されるメカニズムについて考察しました。

『道徳感情論』の内容を要約すると、人間は自己中心的な生き物ですが、他人の感情を理解して共感(sympathy)し、道徳的に行動する自制心もあります。その道徳的行為に第三者の「公平な観察者」が「同感(sympathy)」することで内なる道徳を育みます。

このように人間は自分自身の行為を第三者の目で見ることにより、内なる良識に満ちた人間社会が形成されるとスミスは考察しました。

この原理はその後の『国富論』に継承され、人間の共感と自制が社会の秩序と規範を生み、自由主義経済の適正化を可能にするというスミスの思想を形成しています。

1776年『国富論』

「国富論」は自由主義を基軸とした経済理論を展開し経済学の礎を築いた大著です。「国富論」はそれまでの経済統制政策と重商主義をきびしく批判し、経済活動の自由化こそが国家の発展を速やかに実現する最も効果的な施策であると論じました。

「国富論」が主張する自由主義は、ともすれば国家の存在を否定する市場原理主義に近い思想と誤解されがちですが、スミスが否定したのは資本家(企業家)の利己心であり、国家と資本家の結託による市場の独占と賃金の抑制をきびしく糾弾しています。

18世紀のイギリスは地主や資本家階級が市場を占有。取引には賄賂と談合がつきものでした。スミスは、このような利己的な資本家が経済市場を掌握しているかぎり社会の生産性は向上しないと考え、自由競争市場の確立こそが重要であることを論証しました。

また人間の利己心が市場経済の機能に与える影響について、自由主義社会での経済活動は「見えない手」によって適正化され、自然と理想的な状況に落ち着くと主張しています。これは市場原理の基本思想であり、現代につながる経済学の基礎理論となっています。

アダム・スミスの名言

偉人
「古典派経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスは倫理学者であり道徳哲学者でもあり神学者でもあるという「知の巨人」でした。スミスはその豊かな知見により、多くの名言を残しています。

人間とは、取引をする動物である。犬は骨を交換しない。

最小の労力によって最大の欲望を満たすこと。それが人間の経済行為の基礎原理である。

人が善行と信じて行うことは良心の痛みを伴わない。そのために時として悪行以上に恐るべきものとなる。

社会の利益を追求しようとするよりも自分自身の利益を追求する方が結果として社会の利益につながることが少なくない。

まとめ

  • アダム・スミスは18世紀の経済学者で、資本主義の基礎となる自由主義経済理論を確立し「古典派経済学の父」と呼ばれています。
  • 1759年出版の「道徳感情論(道徳情操論)」は人間社会が形成されるメカニズムについて道徳学的に考察しています。
  • 1776年出版の「国富論」は自由主義を基軸とした経済理論を展開し経済学の礎を築いた名著です。