『姑息』はずるいと違う?本来の意味と使い方|誤用がなぜ生まれるかを言葉の由来から解説検収前 

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この記事では、「姑息」の本来意味や使い方、誤用が生まれた理由などについて考察します。

「こんな姑息な手段を使うなんて許せない」「ホントにあいつは姑息な男だ」など、「姑息」という言葉は、日常的に使われています。しかし、多くの人がその本来とは異なった意味で解釈しているのです。

時代とともに解釈が変化している言葉は少なくありません。この記事を通して、「姑息」の本来の意味や現在の使われ方を理解して、正しい日本語の知識としてお役立てください。

「姑息」の現在の意味と本来の意味

多くの人は、姑息を「卑怯(ひきょう)」や「ずるい」という意味で解釈していますが、本来の意味は「一時しのぎ」です。文化庁が実施した令和3年の「国語に関する世論調査」でも、73.9%の人が「卑怯」という意味を選択し、「一時しのぎ」は、わずか17.4%でした。

この傾向は、年代別においてもあまり差はありません。70歳以上でも61.5%の人が「卑怯」を選び、16歳~19歳では、80.8%に達しています。実際、「あいつは、姑息な人間だね」という表現はよく耳にしますが、「卑怯な人間」「ずるい人」という意味で使われているのが現実です。

「姑息」の誤用が生まれる理由|卑怯・ずるいとは違う?

日本で姑息という言葉が「一時しのぎ」という意味で使われたのは江戸時代からと言われています。この長年に渡って使われている姑息ですが、なぜ約7割の日本人が、「卑怯」や「ずるい」の意味で解釈するようになったのでしょうか?

よく見る「姑息」の誤用や意味の間違いはなぜ?

例えば、「姑息なやり方ばかりの男」と表現した場合、本来の「一時しのぎ」の意味であれば、一時しのぎでいい加減な男のイメージになります。つまり、大切なことを忘れて、一時しのぎのやり方をするような男は、「卑怯でずるい」人間とも言えるでしょう。

このようなつながりから、「姑息=卑怯・ずるい」という誤用が生まれたと考えられます。辞書の補説においても、「卑怯なさま、正々堂々と取り組まないさま」として用いられることもあると解説しています。

「姑息」と「卑怯」「ずるい」との違い

文化庁の調査の選択肢にはありませんでしたが、姑息は「ずるい」という意味で解釈している人も少なくありません。「姑息なやり方」を「ずるいやり方」と思う人も存在します。では、この3つの違いはなんでしょうか?

「卑怯(ひきょう)」とは、「勇気がなく、物事をするにあたって正々堂々としないこと」の意味です。陰で他人を陥れようと画策したり、だましたりする悪いイメージの言葉です。「卑怯者!」と相手をののしるときにもよく使いますね。

「ずるい」は、「自分の利益のために、要領よく振る舞うさま」の意味で、漢字では「狡い」と表記しますが、漢字1文字の「狡(こう)」も「ずるい」と読みます。「ずるい」も「卑怯」と同じようにネガティブな言葉です。

「姑息」と「卑怯」「ずるい」の違いは、「ネガティブの度合い」と言えます。その場しのぎの姑息は、ポジティブではありませんが、この3つの中ではネガティブ度はもっとも低いと言えます。

要領よく振る舞う「ずるい」は、姑息よりもネガティブですが、他人を陥れるような「卑怯」よりは低いでしょう。つまり、「卑怯」がもっともネガティブな言葉で、次に「ずるい」、最後に「姑息」の順番で考えられます。

「姑息」のニュアンス|ポジティブ?ネガティブ?

前述したように、姑息はネガティブな表現ですが、医療界で使う「姑息」は少しニュアンスが異なります例えば、風邪を引いたときその症状に合わせて、解熱剤や鎮痛剤が処方されます。しかし、これはあくまでも風の原因を排除するものではありません。

症状を緩和する「対症療法(たいしょうりょうほう)」です。対症療法は「姑息的療法」とも呼ばれ、一時的に苦痛をやわらげるためにおこなう療法です。同様に、「姑息手術」や「姑息照射」など、病気を治すための療法に「姑息」という言葉が使われています。

つまり、医療界での「姑息」は、病気の改善に向かったもので、ポジティブなニュアンスが含まれていると言えます。

「姑息」の由来・語源

では、この誤用されがちな「姑息」という言葉は、どこから来たのでしょうか?その由来を考察する前に、姑息という熟語の成り立ちから見てみましょう。

姑息の「姑」は、「じゅうとめ」と読み、夫の母の意味ですが、もうひとつ「しばらく」「一時的」の意味があります。「息」は「呼吸」以外に、「やすむ」「とまる」などの意味があり、「一時的にやすむ」から「姑息」の「一時しのぎ」の意味になったと考えられます。

「姑息」は、儒教の最も基本的な経典として有名な「経書」の一つである「礼記(らいき)」に由来していると言われています。この書の中に「君子之愛人也以德、細人之愛人也以姑息」という一文があります。

「君子の人を愛するや徳を以てし、細人の人を愛するや姑息を以てす。」を簡単な現代語に訳すと、「君子は徳を持って人を愛するが、つまらない人間は一時しのぎのやり方でしか人を愛せない」という意味になります。

日本では、江戸時代になってこの儒教的な意味合いのある「姑息」という言葉が使われるようになりました。江戸時代末期ごろから「一時しのぎ」の意味で一般的に広く使われるようになったと言われています。

「姑息」の例文

「国語に関する世論調査」の結果でも示されているように、日本人の7割以上が「姑息」の意味を誤解しています。正しい意味で使われているか判断するのは難しく、あいまいなニュアンスでごまかしているのが実態と言えます。

まずは、過去の書物から本来の意味で「姑息」を使っている例を見てみましょう。

例文
  • 子の願いのままに育てぬるを、姑息(こそく)の愛と云い、姑息の愛をば、舐犢(しとく)の愛とて牛の子を育てるにたとえたり。

これは、江戸時代の陽明学者。中江藤樹が著した「翁問答」の一文です。牛が舐めるように溺愛するように、子供の欲しがるまま育てるのは、「その場限りの愛」であることを諭しています。

例文
  • 借方もかかる所業の不義なるを知るといへども、一はの焦眉の急に迫り、一は期限内にだに返弁せば何事もあらじと姑息して、この術中には陥るなりけり。

明治時代を代表する文豪、尾崎紅葉の金色夜叉の中の文章で、一時しのぎで借金をして、苦境に陥るさまを語っています。

このように過去の書籍などでは、本来の意味である「姑息」は多く見られます。では、現代文において「姑息」の正しい例文とはどのようなものでしょうか?

例文
  • 大臣は、質問時間が終わるまで同じ回答を繰り返すという、姑息な手段を取りました。
  • 姑息な策ではありますが、サンプルが到着するまで、プレゼンを引き延ばしてください。
  • 姑息な方法で乗り越えようとしても、抜本的な解決にはなりません。

姑息本来の使い方は、上記のような例です。しかし、新聞記事などに掲載されている文章の中には、「正式な手続きではなく姑息な方法で」や「姑息極まる政権」など、どう解釈しても「卑怯」や「ずるい」の意味としか解釈できないものも少なくありません。

日常会話での「姑息」の使い方・例文

また、日常会話では、「ホントに姑息なヤツだ」という表現はごく当たり前に使っています。そのほとんどが「卑怯」や「ずるい」の意味で、本来の「一時しのぎ」の意味を理解して言っているケースはごく稀でしょう。

本来の意味で使う場合は、以下のような会話になります。

例文
  • なにかと理由をつけて結婚を引き延ばすなんて、ホントにあの男は姑息よね。
  • 姑息かもしれないが、事態が収まるまで、しばらくは身を隠すとこにしたよ。

このように姑息を単独で使う場合は、本来の「一時しのぎ」という言葉と入れ替えても意味は通用します。

しかし、もっとも厄介なのが、「姑息な手」「姑息な真似」のような形容詞で使う場合です。

よく聞く「姑息な手」や「姑息な真似」はどういう意味で、どんな場面で使われている?

「姑息な手を使う」や「姑息な真似をする」などはドラマなどでよく耳にする言い回しです。しかし、これらの表現が、本来の意味で使われているかどうかを判断するのは難しいでしょう。

では、この「姑息な手」「姑息な真似」は、どうような場面で使われているのでしょうか?

例文
  • 彼は、姑息な手を使う弁護士として有名ですよ。
  • そんな姑息な真似をしても彼女の気持ちは変わらないよ。

この場合、「姑息な手」とは、「一時しのぎの弁護方法」と解釈することができます。少しでも有利な判決を得るためには、あらゆる手段を駆使して裁判を引き延ばすことも弁護士には必要悪です。

次の例文の「姑息な真似」は、あれこれ方策をつくして離婚を回避しようとしているパートナーに対するセリフです。友人を巻き込んだり、プレゼント攻勢を繰り返したりする振る舞いは、結論を先送りにする「その場限りの行動」としか思えません。

このように、時間や結論を引き伸ばしたりする場面で「姑息な手」「姑息な真似」は使われます。

「姑息」の言い換え・類語表現

「姑息」の類語表現としては、「急場しのぎ」「当座しのぎ」「間に合わせ」「お茶を濁す」などが考えられます。

急場しのぎ(きゅうばしのぎ)
  • 意味 
    間に合わせでその場をしのぐこと。
  • 例文 
    そんな急場しのぎの修理では、またトラブルになりますよ。
当座しのぎ(とうざしのぎ)
  • 意味 
    さしあたって、その場だけを間に合わせること。
  • 例文 今回の政治資金規正法の改正案は、
    当座しのぎで裏金防止には効果がないと思います。
間に合わせ(まにあわせ)
  • 意味 
    その場をしのぐこと。
  • 例文 
    間に合わせに書いた台本が、こんなヒット作になるなんて不思議です。

まとめ この記事のおさらい

  • 「姑息」の本来の意味は、「一時しのぎ」。
  • 73.9%の人が「卑怯」という意味で解釈しています。
  • 「姑息」と「卑怯」「ずるい」の違いは、「ネガティブの度合い」。
  • 医療界での「姑息」は、病気の改善に向かったもので、ポジティブなニュアンスが含まれています。
  • 「姑息」は、「経書」の一つである「礼記(らいき)」に由来している。
  • 時間や結論を引き伸ばしたりする場面で「姑息な手」「姑息な真似」は使われます
  • 「姑息」の類語表現は、「急場しのぎ」「当座しのぎ」「間に合わせ」「お茶を濁す」など。