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この記事では「囚人のジレンマ」について解説いたします。「囚人のジレンマ」はゲーム理論を代表する数理モデルですが、現実社会にも通じる行動選択の問題として、社会心理学や経済学など多くの学問分野で研究されています。
ビジネスにも応用可能な「囚人のジレンマ」。今後さらに注目が高まることが予想されます。そこでこの記事では「囚人のジレンマ」の基礎知識から実例にいたるまで幅広く解説いたします。どうぞ最後までお読みください。
「囚人のジレンマ」とは
「囚人のジレンマ(prisoners’ dilemma)」とは、2人の囚人が互いに相反する利得構造の中でどのように行動するかを示すゲーム理論上の数理モデルです。1950年にカナダ人の数学者アルバート・タッカーが提唱しました。
「囚人のジレンマ」は「ゲーム理論」の一つ
「ゲーム理論」と聞くと「ドラクエ」やeスポーツなどのコンピュータゲームを想起しそうですが、ゲーム理論の「ゲーム」とは「遊び」ではなく、外交や政治、商談などで行われる利益追求の駆け引きや策略のことをあらわします。
「ゲーム理論」は自然界や人間社会において複数の主体が相互依存的に関わる状況にある場合、それぞれがどのような意思決定を行い、どのように行動するかを数理モデルを使って研究すること。「ゲーム」のイメージとはかけ離れた難解な学問です。
「囚人のジレンマ」を表す2人の囚人の物語
「囚人のジレンマ」は同じ犯罪に加担して逮捕された2人の囚人の物語です。取り調べは個別に行われ、囚人同士が連絡を取りあうことはできません。取調官は2人から自白を引き出すために3つの条件からなる司法取引を個別にもちかけます。
・2人のうち1人だけが自白した場合、自白した者を無罪とし、自白しない者を懲役10年とする。
・2人とも自白した場合、ともに懲役5年とする。
2人の囚人は互いに連絡が取れない状況の中で同じ司法取引を個別に提示され、自白すべきか黙秘すべきかの選択を迫られます。これが「囚人のジレンマ」の原型となる物語です。
それぞの囚人にとって最も都合が良いのは、自分が自白して相方が黙秘すること。その場合、自分は無罪放免となり、相手方の量刑は倍増します。問題は相手方も同じことを考えて自白した場合に2人とも懲役5年になってしまうことです。
では黙秘した場合はどうでしょうか。2人がそろって黙秘すれば、ともに懲役2年です。量刑は無罪に次いで軽くなりますが、互いに相方の行動が読めないため、もしも自分だけ黙秘して相手方が自白すれば自分だけ重罪になる、という不安は避けられません。
それを考えると黙秘するよりも自白するほうが合理的ですが、2人とも自白してしまうと結局は懲役5年。もしも2人が捕まる前に「捕まったら互いに黙秘を貫こう」と約束したとしても、逮捕後に前述の司法取引を提示されると自白するしかなくなります。
このように自分の利益を優先すると相手方の利益を損ねるという「囚人のジレンマ」のテーマは現代社会のあらゆるシーンで直面する不可避的な状況であり、それを回避するための方策が各方面で研究されています。
「囚人のジレンマ」の理解に必要な「パレート最適」と「ナッシュ均衡」
「囚人のジレンマ」を経済学の難しい言葉で要約すると「ナッシュ均衡がパレート最適とは限らない状況下で発生する利得構造の不一致がもたらす社会的ジレンマ」と表現することができます。
「ナッシュ均衡」とは数学者のジョン・フォーブス・ナッシュが提唱した非協力ゲームの基本的な解の概念のこと。ゲームの参加者全員が最適な戦略を選択しあい、それぞれが最大の利益を享受できている状態をいいます。
一方、「パレート最適」はイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱した厚生経済学の古典的な概念のひとつ。同じ社会集団に属する人々に資源を配分する際に誰かの取り分を増やそうとすると他者の取り分を減らすしかない状況をいいます。
それがなぜ「最適」かというと、誰かの取り分を減らさなければ他者の取り分を増やせない、ということは資源が完全に分配されている状況を意味するからです。
つまり「パレート最適」とは、誰かを犠牲にしないと他者の利益にならない状態のこと。この場合、資源分配の公平性については一切考慮されないのが特長です。
「囚人のジレンマ」は2人の囚人がそれぞれ最適な行動(=ナッシュ均衡)を選択したとしても、2人にとって理想的な結果(=パレート最適)とは限らない状況を示しているといえます。
「囚人のジレンマ」の実社会における具体例
企業間の価格競争
「囚人のジレンマ」の具体例としては資本主義の企業間の価格競争があげられます。たとえば市場のシェアを二分する2社が値下げ競争を行う場合、両社とも価格を下げると損になり、相手より高価格だとシェアを失ってやはり損になります。
そのため価格競争をしてもしなくても結果的に両社の利益が低下する状況は避けられません。そこで互いに協調して価格競争を自制すると、一方が市場を独占できる可能性はなくなりますが、両社ともある程度の利益は見込めることになります。
しかもこの協調行動は「相手が抜け駆けして価格を下げるのではないか」という疑念が拭えないことも「囚人のジレンマ」と同じです。
トイレットペーパーなど日用品の買い占め騒動
2020年のコロナ禍ではトイレットペーパーやマスク、ミネラルウォーターなどの買い占め騒動が全国規模で発生しました。時代を遡れば1970年代のオイルショックでもトイレットペーパーの全国的な買い占め騒動が発生しています。
このパニック的な消費行動にも「囚人のジレンマ」が当てはまります。すなわち自分がトイレットペーパーを買い占めれば他人は買えなくなるので不利益になり、逆に自分が買い占めなければ他人が買い占めるので、他人の利益になる状況です。
自分も他人も買い占めれば、トイレットペーパーは品薄になって買えなくなるかもしれません。そこで自分も他人も買い占めを控えれば、いつでも入手できるようになるのですが、不安時の意思決定は合理的な行動に結びつきません。
「囚人のジレンマ」の解決方法
現実社会のあらゆる場面で起こり得る「囚人のジレンマ」。それを解決するには罰則を設けたり、関係者間で長期的な信頼関係を築くなどの方法があります。
罰則を設ける
「囚人のジレンマ」を回避するための社会的な解決手段は、実効性の高い罰則を設けて全ての違反者に適用すること。秩序罰としての罰則や過料を設けることで当事者の意識を改革し、良識ある公平な行動を促す効果があります。
長期的な信頼関係を築く
囚人のジレンマは当事者同士の利得構造が相互依存の関係性に乏しく、意思疎通が不十分な場合に起こりがちです。そこで当事者間の信頼関係を構築することで「相手を裏切ったほうが得になる」という悪の誘因を排除することができます。
まとめ
- 「囚人のジレンマ」は同じ犯罪に加担して逮捕された2人の囚人の物語です。
- 2人の囚人は互いに利益構造が相反する中で自白すべきか黙秘すべきかの選択を迫られます。
- 「囚人のジレンマ」はナッシュ均衡がパレート最適とは限らない状況下で直面する構造的な問題です。
- 「囚人のジレンマ」の実例としては企業間の価格競争や消費者の買い占め騒動があげられます。
- 「囚人のジレンマ」を防ぐには有効な罰則を設けたり長期的な信頼関係を築くといった方法があります。