同一賃金同一労働を実現すると非正規社員の人は賃金が上がって良いことばかりだと思っていませんか?
本当にそうでしょか。
そもそも、同一賃金同一労働は実現可能な制度なのか疑問に感じている人もいるでしょう。
この記事では同一賃金同一労働のメリット・デメリット、同一賃金同一労働の実現が難しい理由をご紹介します。
目次
同一賃金同一労働で非正規社員の待遇を改善
同一賃金同一労働とは同一の労働を行なう人には同一の賃金を支払う制度です。
この同一賃金同一労働は、ドイツやフランスをはじめとしたEU諸国に普及している考え方をもとに正規社員と非正規社員の待遇差を解消することを目指しています。
例えば、同一賃金同一労働の基本給は職業経験や能力、業績・成果、勤続年数の3つが同じであれば雇用形態に関係なく同一賃金を支払うことになります。
ただし、同一労働であってもキャリアコースが違う場合は賃金に差があっても良いことになっています。
同一賃金同一労働実施にあたり改善する点
同一賃金同一労働を実施するにあたり正規社員と非正規社員の格差をなくさなくてはいけないことがあります。
- 基本給
- 賞与
- 役職手当
- 食事手当
- 福利厚生
- 教育訓練
- ADRの整備
賞与を払うということは、今まで正社員のみに実施していた人事評価を非正規社員にも行なうことになります。
また、福利厚生を非正規社員に使用できるように就業規則を変更し、教育訓練を受講できるようにキャリアプランを作成するといった変更を人事部で行なわなければなりません。
なお、ADRとは裁判外紛争解決手続きのことです。
均等・均衡待遇を受けられないときに無料で利用できる行政ADRの整備が進められています。
派遣社員はどうなる?
正社員とパート社員は同一企業内の不合理な待遇が禁止されますが、派遣社員の場合はどうなるのでしょうか。
派遣社員は「派遣先の労働者との均等・均衡待遇」または「一定の要件(同種同業務に就く一般労働者の平均的な賃金であることなど)を満たす労使協定による待遇」のいずれかの待遇を確保することが義務化されています。
つまり、派遣先の労働者と同等の賃金および待遇が確保されることになります。
同一賃金同一労働のメリット・デメリット
同一賃金同一労働の概要を理解したところで同一賃金同一労働のメリットとデメリットを知っておきましょう。
自分の立場ではメリットとデメリットのどちらが多いか考えてみましょう。
同一賃金同一労働のメリット
- 非正規社員のモチベーションがアップする
- 同等の研修を受けるので雇用形態に関係なく活躍する人が出てくる
- 再雇用者も対象になるのでシルバー人材のモチベーションがアップする
- 男女格差が是正される
- 外国人労働者の待遇が改善される
- 非正規社員に経済的な余裕が生まれる
- 賃金的な理由で正社員を選んでいた人が、自分に合った雇用形態を選べるようになる
- 優秀な非正規社員の定着率が上がる
同一賃金同一労働のメリットすなわち非正規社員のメリットです。
ワークライフバランスを重視した働き方が実現できるようになると、過労死という言葉も死語になるかも知れません。
同一賃金同一労働のデメリット
- 人件費が高くなる
- 派遣社員の請求額が高くなるので派遣社員を雇えなくなる企業が出てくる
- 将来的に正社員の賃金が下がることがある(特にフリーライダー、ローパフォーマー)
- 新規採用を見合わせるまたは採用人数を減らす企業が出てくる
- 賃金差の合理的な理由を社員へ説明しなければならない
- 年功序列から能力主義への移行がはじまる
- 職種により賃金格差が生まれる可能性がある
- 若者の失業率が高くなる(能力主義になると経験値が低い若者が不利なため)
- 非正規社員でパフォーマンスが低い人は契約終了になる可能性が出てくる
能力主義が嫌いな人にとっても同一賃金同一労働は大きなデメリットかも知れません。
同一賃金同一労働の実現を難しくする2つの理由
同一賃金同一労働を実現するには、さまざまな企業内の制度を整備しなければ実現することができません。
制度の整備を難しくしていることが2つありますのでご紹介します。
正規社員と非正規社員の違い
同一賃金同一労働では、正規社員と非正規社員で同じ職務を担当しているのであれば同一賃金となっていますが、正規社員と非正規社員では背負う責任やキャリア形成が異なります。
【正規社員と非正規社員の違い】
- 正規社員は繁忙期や急なトラブル時には残業(サービス残業含む)をすることが前提になっている
- 日々の業務以外に会社のイベントやセミナー参加、他部署の応援もやらないといけない
- 正規社員は会議への出席や管理職候補向けの研修へ参加、人事ローテーションがある
- 企業への忠誠心から社内コンペや飲み会への参加が求められる
このように正規社員は管理職候補であることから、非正規社員にはない会議やイベントへの参加、人事異動を求められます。
これらを加味せずに職業経験や能力、業績・成果、勤続年数の3つで同一賃金にするのは難しいのですが、賃金差が出る時は合理的な理由を説明することが義務化されているため、企業にとっては頭が痛いところです。
メンバーシップ制度で難しくなっている
同一賃金同一労働がすでに取り入れられている欧米と日本では採用方法や働き方が異なります。
【ジョブ型】
欧米で採用されている働き方です。
欠員が出ると職種別採用で募集を行ないます。
求職者は自分自身の専門スキルを活かして自らの職務を企業へ提示して採用選考を受けます。
ジョブ型では職務以外のことを行なう義務が発生せず、勤務時間外に仕事が発生することもありません。
そのため、自分が担当する仕事がなくなれば配置転換されることがないため契約解除になります。
【メンバーシップ型】
日本で採用されている働き方です。
年功序列型で終身雇用を前提として新卒一括採用で人材の採用を行ないます。
職務や勤務地を限定せず、入社後に新入社員研修やOJTを行い配属先が決定されます。その後は活躍度や本人の希望を考慮して人事ローテーションでさまざまな仕事の経験と知識を得ていきます。
このようにジョブ型とメンバーシップ型ではさまざまな点で異なります。
特に大きな違いは職務が明確なジョブ型と職務が人事ローテーションで変化するメンバーシップ型という点です。
仕事内容が明確ではないメンバーシップ型のまま同一賃金同一労働を導入した場合、職務が変更になると賃金が下がってしまう可能性が出てきます。(例:営業からバックオフィスへ異動)
賃金が下がると離職の原因になるため全職種で同一賃金を導入するのか、他の手当をつけるのか企業は賃金制度を見直さなければなりません。
同一賃金同一労働のまとめ
- 同一賃金同一労働は正規社員と非正規社員の格差をなくすことを目的としている
- 同一賃金同一労働のメリットは非正規社員に多く正規社員には少ない
- 同一賃金同一労働のデメリットは企業に負担が多いこと
- 同一賃金同一労働の実現が難しいのは欧米と日本の働き方が異なること