近年、多くの企業で導入されている「みなし残業」。適切に運用されれば、雇用者にも労働者にもメリットがある制度ですが、一方で、残業代が適切に支払われないといった運用上の問題も指摘されています。

この記事では、みなし残業の詳細と問題点について解説します。

みなし残業とは

みなし残業は、あらかじめ1ヶ月分の残業時間を決めておき、定額の残業代を支払う制度です。

実際に残業をしなかったとしても、その時間内であれば、最初の取り決めどおり残業したものとみなされ残業代が支払われます。

似たような名称の「みなし労働時間制」と混同されがちですが、両者は別物ですので注意が必要です。

固定残業代=みなし残業

固定残業代とは、一定時間分の残業代を定額で基本給に組み込んだ賃金体系のことです。

一般に「みなし残業」と呼ばれているのは、この固定残業代のことです。

労働基準法に規定はありませんが、過去の判例では、一定の要件を満たせば適法と認められています。

みなし労働時間制

みなし労働時間制とは、あらかじめ1日の労働時間を労使間で協定し、それを元に給与を設定する制度です。

労働時間の管理が難しい職種や、賃金を単純に労働時間で決めることができない職種に適応されます。

この「みなし労働時間制」は経営者が無条件に採用できるものではなく、労働基準法で以下の職種に限定されています。

1.事業場外のみなし労働時間制(外回り中心の営業職や在宅勤務など)
2.専門業務型裁量労働制(研究者や弁護士、コンサルタントなどの専門職)
3.企画業務型裁量労働制(事業運営に関する企画、分析、調査スタッフなど)

みなし残業は損する事が多い

みなし残業の採用企業が増えている理由のひとつに、制度を悪用して残業代を削減できることがあげられます。

たとえば基本給にみなし残業代を加えることで、表向きの固定給を高く見せる一方で、残業代の算出基準となる基礎時給額を下げることができます。

この場合、みなし残業を超える時間分の残業代は実質減額になってしまい、損することが多くなります。

みなし残業を取り入れる本来の理由

みなし残業の本来の意味は、「みなし労働時間制」において、一日の残業予定時間をあらかじめ労使間で協議して設定することです。

この場合の「みなし残業」は、「みなし労働時間制」と同様に、労働時間の算定が困難な職種に限って認められるもので、どんな業種でも適用できる制度ではありません。

一方、固定残業代を意味する一般的な「みなし残業」の場合、本来は労使双方に以下のようなメリットがあります。

1.会社側にとっては、一定時間までは残業代の計算が不要になる
2.会社側にとっては、みなし残業代は超過勤務手当の計算基準となる基本給に含まれないため、所定の時間を超えて残業した場合の残業代が抑えられる
3.社員にとっては、残業しなくても所定の残業代が得られる

みなし残業を悪用する理由

一部ではありますが、みなし残業制度を悪用している会社もあります。

たとえば、社員の残業時間がもともと多い会社であれば、基本給の一部を「みなし残業代」にすり替えることで、残業代を違法に削減することができます。

また、社員がどんなに残業しても、みなし残業代しか支払われなかったり、社員に対して、みなし残業の規定時間内に仕事を終えるように圧力をかけたりする会社があります。

かえって違法なサービス残業の隠れ蓑になっているともいわれています。

辛い残業や、制度に反した残業が続いている場合の対処法はさまざまです。こちらの記事も参考になります。
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みなし残業の上限は1ヶ月45時間

労働者に対して、休日出勤や法定労働時間を超える労働を求める際には、労働基準法第36条にもとづく労使協定を締結しなければなりません。

それを36協定(さぶろくきょうてい)といい、超過労働の上限を週15時間、1ヶ月45時間、1年360時間として時間外労働が認められます。

ただし、職種によっては繁忙期に仕事が集中するため、 特別条項付きの協定で1ヶ月60時間までの残業が認められるという制度もあります。

1年間に6ヶ月以内という条件付きではありますが、法で許される「みなし残業」の理論的な上限は、1ヶ月に60時間ということになります

みなし残業から適正な残業代を取り返す計算

みなし残業で未払いにされた残業代を取り返すには、まず適正な残業代から計算しなくてはなりません。

「残業=時間外労働」の割増賃金は条件によって変わります。
しかし、原則的には残業代の時給額は基本時給の1.25倍ですので、適正な残業代は

基本給の時給額×1.25×1ヶ月の残業時間

という計算式で求められます。

この残業代が、みなし残業の手当を超えた場合には、超過分の残業代を未払い賃金として、会社から取り返すことができます。

一部の会社では、固定残業代の算出基準となる「みなし残業時間」を不当に長く設定して、その時間外の残業の手当を支払わなかったり、固定残業代の時給そのものを安く設定するといった悪質なケースもあります。

固定残業代も含めて、残業代が適正に支払われているかどうか確認することをおすすめします。

その他の職種・自分の平均年収が気になる方はこちらが参考になります。
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みなし残業から適正な残業代を取り返すための証拠

会社から適正な残業代を取り返すためには、実際に残業したことを示す証拠が必要です。

それにはタイムカードや社内メールの送受信記録、日報など正確な勤務時間が分かる資料を用意しなければなりません。

また、入社時の雇用契約書や労働契約書、就業規則などには、給与や残業代を含めた労働条件などの規定を明記されています。
さらに、実際に支払われた給与額を示す給与明細も必要です。

残業代を取り返す場合は、弁護士に相談するのもひとつの方法です。

みなし残業のまとめ

  • みなし残業とは、あらかじめ決めた残業代を定額で基本給に組み込むこと。固定残業代ともいう。
  • みなし労働時間制は、みなし残業とは違い、特定の職種に限られる。
  • みなし残業制度を悪用し、正規の残業代を支払わないブラック企業もある。
  • 会社の不正を防ぐには、労働者側も残業代が適正に支払われているかどうかを確かめる必要がある。

現在、辛い残業に悩まれている方は転職を検討してみてもよいかもしれません。